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VERTIGO・めまい。 [気になるエトセトラ]


 子供のころ、こんな夢を見た。・・・という書き出しだけれど、黒沢映画でもヒッチコックの話でもない。薄暗い螺旋階段を、ひたすら駆け降りていくという夢なのだが、いくら降りても踊り場もなければフロアもない。行き着く先が見えないほど、螺旋階段の底は深い。それでもなにを思ってか、一所懸命に降りていく・・・という夢だ。
 夢判断に詳しい人に言わせれば、成長期にありがちな、ごくごくありふれた一般的な夢なのだそうで、「身体の調子の低下か健康障害」あるいは「物事がうまくいかない焦り」、さらには「先が見えない不安感」などを表しているのだそうだ。確かに、風邪を引きそうなときとか病後に、こんな夢を見ていたように思う。目ざめると、たいがい汗をぐっしょりとかいていた。いまから思えば、笑い話のような思い出のひとつなのだが、ただひとつ「トラウマ」となってしまったらしいのは、どうしても馴染めない風景ができてしまったこと。上の写真のような風景を見ると、奈落の底へと引きずりこまれそうで、いたたまれなくなってしまうのだ。
 わたしは、高いところが苦手ではない。下落合駅前の高層マンションの屋上から、デジカメ片手に身を乗り出すようにして、下落合の斜面全景を撮影してたりするので、高所恐怖症じゃないのだろう。山登りも、昔から好きだ。だが、ある一定の規則性をもった風景、螺旋状のようになんらかの繰り返しの模様が下までつづいているといった高所が、どうやらダメらしいのだ。そんな風景に出会うと、とたんに気持ちが悪くなり、足がすくみそうになる。
 江戸時代に、深川の向こう亀戸村の畑地の真ん中に、とんでもない高層建築があった。ちょうど本所五ツ目、竪川と小名木川に挟まれた大江戸の郊外だった。おそらく建物は、十丁四囲から望めただろう。当時としてはめずらしい、3階建ての黄檗宗「羅漢寺」、別名「五百羅漢さざい堂」だ。広重の『名所江戸百景』第66景にも、「五百羅漢さざゐ堂」として描かれている。当時は檀家をいっさい持たなかった貧乏寺にしては、かなり無理をした普請だったのではなかろうか。住職までが江戸市中を托鉢してまわったり、百人講という「基金」をつくって寄付を集めたりと、寺の運営に四苦八苦している様子が伝わっている。
 
 3階建ての高楼からは、かなり遠方まで見わたせたのが広重の絵からもわかる。だが、内部は吹き抜けで、まるで「さざゐ」のような螺旋状の階段が上階までつづいていたというから、いまも現存していたら、わたしには怖かったかもしれない。30階建てのビルの屋上は平気だが、3階建てでも繰り返しの「螺旋」模様が下へつづいてたりすると、とたんに気持ちが悪くなってくる。変といえば、妙なクセなのだ。
 なぜ、吹き抜けのマンションが、いきなり「五百羅漢さざい堂」へとつながってしまったのかというと、実はこのマンション、羅漢寺の近くにあったりする。

さざい(ゐ)=東京の下町方言で「さざえ」のこと。サザエさんは、通常「サザイさん」と発音される。また、わたしの子どものころは蜆(しじみ)は、シジメと発音されることが多かった。
■絵図:金鱗堂・尾張屋清七版「本所深川絵図」(1862年・文久2)改訂版より。


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kenta-ok

ヒッチコック・ズームではないですか。
by kenta-ok (2005-10-25 00:18) 

ChinchikoPapa

写真のまん中に、人の形を切り抜いてかぶせ、それを
グルグル回したりしたら、もう悪夢ですね。(笑)
by ChinchikoPapa (2005-10-25 00:32) 

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