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神田川に残る江戸ダヌキの聖地。 [気になる神田川]

 江戸の「三森稲荷社」と呼ばれたひとつ、柳森稲荷は神田川河畔に建っている。ちなみに姉妹の三社とは、日本橋の椙森稲荷社と新橋の烏森稲荷社だ。神田川の川筋は、柳の大木が生い茂った野っ原がつづき、柳橋から浅草御門(浅草橋)、そして和泉橋あたりにかけては「柳原土手」と呼ばれていた。
 柳森稲荷は、ちょうど和泉橋と筋違御門(筋違橋/すじかいばし)との間にあるが、この界隈はさらにうっそうとした柳の森が茂っていたのかもしれない。町火消しと加賀鳶(大名火消し)が大喧嘩を繰り広げた、ご存じ「お祭り佐七」の舞台Click!は、ちょうどこのあたりの原っぱだ。でも、柳森稲荷を有名にしたのは、喧嘩でも境内に築かれていた富士講の「柳原富士」でもない。タンタン、タヌキだ。
  
 通称「おたぬきさん」と呼ばれる福寿神は、五代将軍・綱吉の時代に生母である桂昌院によって、千代田城内のこの地に建立された。大奥の女中たちはもちろん、六代将軍・家宣もひきつづき参拝をつづけ、江戸の庶民からは「おたぬき様」という名で長く親しまれることになった。「たぬき」は「他抜き」にひっかけた駄洒落で、青物屋の町人娘が将軍の生母にまで出世したことにあやかり、出世や幸運の神様としてユーモラスなタヌキが奉られている。お参りする人たちも、政治家や芸能人、会社員、ギャンブラーと多種多様だ。
 ご神体は、高さ15cmほどのタヌキ像だが、柳森稲荷の境内には、そこここにタヌキの像が置かれている。稲荷のはずなのに、キツネの数よりもタヌキの数のほうが多いのが、やはり異様な雰囲気の境内だ。柳森稲荷のお守り(タヌキ像)も、キツネではなく親子ダヌキというのだから、ここでは本殿のキツネはお呼びでない存在になってしまった。濃い「おたぬきさん」ファンの中には、結婚式の引き出物に同社のタヌキ像を贈る人もいるとか。当然、お供え物は油揚げではなく、タヌキが好む甘い菓子類や果物が多いようだ。
 
 目白・下落合界隈には、昔からタヌキが数多く棲息しているが、タヌキを奉った社(やしろ)はわたしの知るかぎり存在しない。キツネを奉った藤森稲荷や、ネコ(?)を奉った自性院はあるが、これほどたくさん住んでいるタヌキは、あまりに日常的すぎて信仰の対象とはならなかったものか。そういえば、下落合駅の南側にある水道局の落合下水処理場には、戦前、キツネが住む森があったと聞いた。下落合では、キツネがめずらしかったので、現在まで伝承がつづいているのかもしれない。
 上野の山にも、タヌキが数多く住んでいるようだが、東照宮の境内にはちゃんとタヌキを祭った社が、小さいながらも建立されている。下落合でタヌキ信仰を見かけないのは、江戸期には稲荷信仰が幅をきかせて、タヌキ信仰の入り込むすき間がなかったのか、あるいは信仰の対象とならないほど、まるで現在の野良ネコのように数が多かったので、タヌキの有り難味がなかったせいなのか・・・。
 
 東京のタヌキは、環境の良し悪しを示すバロメータのような存在だと感じる。「おたぬきさん」を大切にすることは、どこか人間の生活を大切にすることに通じるような気がしてならない。

■写真上:柳森稲荷社雪中。神田川に面していて、左すみの小さな祠社が「おたぬきさん」。
■写真中上は、♪タンタンタヌキの・・・雪が積もるほどとは。(絶句) は、「おたぬきさん」の社。キツネのかわりに、お参りはすべてタヌキが迎えてくれる。雪の日はさすがに寒そうだ。
■写真中下の切絵図は、金鱗堂・尾張屋清七版「日本橋北内神田両国浜町明細絵図」(1850年・嘉永3)。は、柳森稲荷のすぐ川下にある和泉橋(ブルーの橋)。
■写真下は柳森稲荷とは“森”つながりの「三森稲荷」のひとつ、日本橋にある椙森稲荷。は、上野の東照宮境内に奉られたタヌキ社。家康を意識したわけでもないだろうが、上を向いた太ったタヌキがご神体だ。社には葵の紋が彫られ、なにやらありがたい後光が差している風情だ。


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ChinchikoPapa

関口芭蕉庵のネコつながりで、*peace*さんのブログへTBさせていただきました。こちらもnice!をありがとうございます。
by ChinchikoPapa (2006-02-08 19:59) 

ChinchikoPapa

以前の記事にまで、nice!をありがとうございました。
 >kurakichiさん
 >さらまわしさん
by ChinchikoPapa (2015-02-16 16:32) 

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