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オッパイと山師(探鉱師)との関係って? [気になるエトセトラ]

 典型的な「乳イチョウ」だ。太い幹から、まるで鍾乳石のようなツララ状の気根(きこん)が、いくつもたれ下がっている。気根をたらす樹木の性質から、イチョウはさまざまな物語を産んできた。「子育てイチョウ」や「子宝イチョウ」、「子安イチョウ」、「乳出イチョウ」など全国にいろいろな伝承が残っている。これは、椿山は関口芭蕉庵の庭園にある乳イチョウ。
 各地に残るフォークロアには、ひとつの典型的なパターンがある。たいがい貧困で食生活が貧しいためか、あるいは姑の嫁いびりで乳の出が悪くなった、ストレスのかたまりのような新妻が登場する。乳の出が少しでもよくなるようにと、近所の寺へお参りをして和尚にお経をあげてもらう。すると、翌朝からはまるで枯れることのない泉のように乳が湧き出て、赤ん坊はすくすくと成長する。やがて、和尚が死んで記念にイチョウの木を植えると、あら不思議。イチョウの幹からは、まるでオッパイのような房が次々とたれてきた。以後、乳の出が悪い母親が「乳イチョウ」に願をかけると、とたんに母乳がよく出るようになったとさ。(おしまい) 
 もうひとつ、各地に残る乳イチョウや大イチョウは、弘法大師(空海)が植えたとする伝承も根強く残っている。でも、全国に残る「弘法大師」伝説は、空海の足跡をはるかに逸脱しているので、なんらかの行脚伝承が転化したものとの見方が、柳田民俗学を中心に主流となっていた。確かにそのような側面もあるのだろうが、もうひとつ忘れてはならないのは探鉱師、つまり鉱物を探し当てる技術を中国から持ち帰った、鉱山技師(山師)としての空海の側面だ。「山師」という言葉は、近世になって詐欺師と紙一重のようなつかわれ方をしているけれど、本来は鉱山(探鉱)技師の意味だ。
 乳イチョウもそうだが、乳が湧く、清水が湧く、温泉が湧く・・・というように、地面から直接、あるいは間接的に地面と深く関わりのあるものから、何かが「湧き出る」という伝説は、平安期に全国各地へ散っていった探鉱技術を持つ「高野聖」(実は探鉱師)たちに、なんらかのいわれのある土地ではないだろうか? 当時、都では金(きん=gold)や丹(に=水銀)、銀、銅などの鉱脈が盛んに探索されていた時代だ。金(かね=iron)を産む砂鉄を求めて全国を彷徨していた、古墳~奈良時代のタタラ集団以来の、大規模な「探鉱作戦」だったろう。その時代に、もっとも価値のある鉱物に同じ“金”という文字が当てられているのが、とても興味深い。
 
 イチョウは、「生きた化石」と呼ばれるほど珍しい植物で、祖種も含めると4億年ほど前から地球上に生えていたようだ。恐竜の絶滅とともに、地上からほとんどの種が滅びてしまった中で、なぜかイチョウは東アジアのみで生き残った。日本のイチョウは、鎌倉時代前後に中国からもたらされたとも、日本の原生種だともいわれているけれど、いまとなっては詳細は不明らしい。近代に入り、再び欧米へと拡がったイチョウは、ほとんどが日本から送られたものだ。
 ヨーロッパではとうに絶滅していて、19世紀まで化石でしか見ることができなかった。だから明治以降、日本から持ち込まれたイチョウの現物を見て、ヨーロッパの植物学者や古生物学者は腰を抜かすほど驚いたのだ。彼らにしてみればシーラカンスか、はたまた恐竜の生き残りの発見にも近い感覚だったのだろう。日本から欧米へと渡った植物で、もっとも喜ばれたのはサクラでもキクでもツバキでもなく、実はイチョウだったという話もある。秋になると美しい彩りを見せるイチョウは、ヨーロッパの街角にもよく似合うのだろう。
 
 面影橋の北に、圓朝の『怪談乳房榎』で知られる南蔵院Click!がある。こちらは、イチョウではなくエノキなのだけれど、正介は重信の遺児・真与太郎を角筈十二社の滝つぼへ投げ込まず、エノキの幹にできた瘤からしたたり落ちる乳で育てあげた。もっとも、こちらは三遊亭圓朝の怪談噺だから、とりあえず山師(鉱山技師)の匂いがする「探鉱作戦」とは無縁かもしれないが、弘法大師のいわれを持つのは面白い因縁だ。

■写真上:椿山の関口芭蕉庵の庭園にある、気根がまるで鍾乳石のような乳イチョウ。
■写真中は、赤坂氷川明神の境内にある、天然記念物の大イチョウ。この氷川明神も、鉄剣や石棺が見つかるなど、古墳の聖域Click!であったことがうかがわれる。は、メーヤー館の斜向かいにある下落合の大イチョウ。
■写真下は、圓朝『怪談乳房榎』の舞台となった高田にある南蔵院。菱川重信は、名物・落合のホタル狩りに連れ出されて惨殺される。はその舞台のひとつ、1955年(昭和30)ごろの角筈(つのはず=西新宿)熊野十二社(そう)。弁天池は、1968年(昭和43)に埋め立てられた。

妙なタイトルにしたら、スパムがすごいですね。(汗)


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fuRu

『怪談乳房榎』
やっぱり出てきましたね。
それはともかく、イチョウについては、一度書いてみたかったのですが
日本からヨーロッパに渡って、向こうの学者がびっくりしたというのは
面白いですね。
それにしても、イチョウは不思議な植物です。
by fuRu (2006-05-08 09:56) 

ChinchikoPapa

ピワの葉と同じで、イチョウにはいろいろな薬効も言われていますね。一時期、身体にいいと言われて「イチョウの葉エキス」というのを水で薄めて飲んでいたことがありますが、これがやたらスゴイ。(汗)
濃い深緑の原液は、いかにもなにかに効きそうな感じなのですが、飲んだあとのタバコがまずいこと。(笑) あれは、消炎か殺菌の効果があるのでしょうか・・・。
by ChinchikoPapa (2006-05-08 10:58) 

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