SSブログ

中村彝アトリエを保存する方法論。 [気になる下落合]




 中村彝のアトリエを保存するためには、具体的な方法論としてどのような課題が存在するのだろうか? 「保存する」と決定したとしても、さまざまな問題が浮上してくるだろう。その最大のものとしては、傷んだアトリエの建物の修復をどうするのか?・・・というテーマがある。なにしろ、1916年(大正15)に建てられてから築90年が経過しているので、お住まいのS様により随時補修がなされているとはいえ、アトリエの基礎から考えなければならないだろう。
 早稲田大学が、今年の夏に実施した記録調査による「建造物調査概要報告」書を入手した。それによれば、洋館アトリエ部分の北側の傷みが、やはり深刻なようだ。根太部分の劣化が激しく、基礎部分にも傷みが進行している可能性があると報告されている。また、応接室(彝の居間)は、基礎束石の劣化が見られるとのこと。屋根は、一部雨漏りの跡が見られ、屋根材・構造に関わる部分も経年劣化が進行している可能性が指摘されている。ベルギー製といわれる屋根瓦の傷みもあるのか、全面的な屋根のふき替えが必要との感触だ。また、早大の調査団は屋根裏には入れなかったようで、もう一度、内部状況の詳細調査が必要としている。
 
 わたしの手元に、彝アトリエの屋根裏を撮影した貴重な写真がとどいている。おそらく、1980年前後の撮影と思われるが、アトリエ建築当初から存在したものか、なにか行李のような駕籠状のものや、余った部材のような板がまとめて収納されているのが見える。新たに見つかった資料とともに、すでに新宿区の教育委員会へお送りした。
 つい先日も、アトリエ屋根から雨漏りしているのが見つかったが、建物の補修・保存はどうやらタイムリミットぎりぎりであることが、早大の報告書からもうかがえる。補修される前に大きな地震でもあれば、保存どころではなく倒壊の危険性もあるのかもしれない。
 壁面に関しては、内壁はそれほどではないものの、外壁の傷みが激しい。アトリエ北面の下見板の崩落をはじめ、鎧戸や窓枠の破損が多いと報告されている。そして、報告のしめくくりとして「全体的に腐食・欠損・浸水・亀裂等の損傷が目立ち、建物の劣化が進行。/解体によって判断すべき点が多い」と結んでいる。それはそうだろう、建てられてから90年の歳月が流れているのだから・・・。佐伯アトリエよりもさらに古い、日本の「アトリエ建築」としてその後も踏襲されつづけていく、まさに初期型の建築物なのだ。報告書では、「アトリエ建築」の嚆矢であることにも触れられている。
 
 「解体によって判断」と報告書に書かれているように、彝アトリエをこれから永年にわたって保存するためには、一度すべて建物を解体して、基礎から建てなおさなければならない可能性が高い。つまり、建物を補修する・・・という感覚ではなく、いっぺんバラバラの部材にしたあと、傷んだ部材をひとつひとつ補修、あるいは新規のものに差し替えて、復元・再構築する必要がありそうだ。換言すれば、解体→復元の過程を一度通らない限り、耐震や防火の観点から建物を維持するのは難しいという判断なのだろう。
 でも、視点を変えるなら、これでアトリエ保存に向けた方法論=青写真めいたものが、ひとつ具体的に提出された・・・ということになる。傷みが激しくて「保存が不可能」なのではなく、解体して基礎から補強して復元すれば「保存は可能」という感触なのだ。この報告書によって、彝アトリエの保存へ向けた施策が、いよいよ具体化したことになる。

■写真上:中村彝アトリエの増築前の姿、そして玄関部分をまさに増築しようとしている姿をとらえた、1929年(昭和4)ごろと思われる超貴重な写真だ。撮影者は、佐伯祐三アトリエから引っ越してきたばかりの、洋画家・鈴木誠Click!自身だと思われる。関東大震災直後に、彝自身が大工出身の画学生に依頼して改築したらしい、アトリエ東側の様子がとらえられた非常にめずらしくて貴重な写真だ。
■写真中:彝アトリエのめずらしい天井裏写真。記録調査では、天井裏の調査は行われなかった。吊るされた駕籠の中に、なにか貴重な資料が眠っていそうだ。
■写真下は、1929年(昭和4)ごろに増築された玄関。は、傷みが激しい採光窓のある北面。


読んだ!(1)  コメント(2)  トラックバック(2) 
共通テーマ:アート

読んだ! 1

コメント 2

小道

こんばんは。小道です。
今年はいろいろとお世話になりました。楽しい出会いでした。

彝アトリエですが、復元になっても残しておくことが、その土地にとって大切なことと思います。アトリエのない落合は意味がないと思います。是非、この遺産を残して欲しいです。
by 小道 (2006-12-28 21:24) 

ChinchikoPapa

こちらこそ、いろいろとありがとうございました。(^^/
また下落合へお越しの際は、お声がけください。アトリエは、間違いなく「保存」の方向へはまわりつつも、なかなか予算がつかないようです。もうひと押しですね。お正月のヒマを利用して、もうひと押ししろしろ練ってみます。
また、彝関連の記事も、できるだけ書く予定です。ご笑覧ください。
by ChinchikoPapa (2006-12-28 22:26) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2

トラックバックの受付は締め切りました