さようなら、目白変電所(配電所)。 [気になる下落合]
東京電燈(現・東京電力)が山梨県に建設した鹿留水力発電所から、高圧鉄塔の谷村線を通じて東京市街へ電力を供給するために、1913年(大正2)に建造された目白変電所(配電所)が解体されている。強固な鉄筋コンクリート造りの建築で、1945年(昭和20)4月13日夜半の山手空襲により内部は焼けたようだが、建物そのものはほとんど無キズで残った。
焼け残った建屋はかなり大きく、1947年(昭和22)の空中写真を見ると、敷地内にはビルがいくつか確認できる。ただし、戦後に整備され今日まで残されたのは、北西の下落合側に位置していた比較的小さな建物だけだったようだ。また、その建物自体にもいくらかの手が加えられているらしい。それでも、田島橋Click!に面した独特な建築意匠は、神田川から下落合への入口として、ずいぶん以前より地域のメルクマール化していた。田島橋といえば真っ先に、目白変電所の独特な姿が目に浮かぶほど、象徴的かつ印象的な風情を醸しだしていた。学生時代、下落合をタテに抜けるコースをたどって田島橋へと差しかかり、灰褐色に褪せてくすんだコンクリートの目白変電所が目に入ると、あともう少しで高田馬場駅だ・・・と、ホッとひと息ついたものだ。
もうひとつ、この建物の存在感を決定的にしたのは、下落合に住んでいた松本竣介Click!の作品Click!へ、田島橋とともに目白変電所が何度か登場しているからだ。気軽に東京各地へスケッチに出歩けなくなった、戦時中に描かれたそれら近所の風景をモチーフにした作品には、戦後になって建屋群が大幅に整理され手を入れられてしまう以前の、目白変電所の貴重な姿がとらえられている。もっとも、佐伯祐三の「下落合風景」Click!とは異なり、松本竣介の作品はモチーフのデフォルメが非常に激しく、どこまでが正確な描写なのかはちょっと不明なのだけれど・・・。
三越の染物工場の長い塀を左手に、神田川をはさんで田島橋の向こう側に目白変電所が見える位置へ自身がたたずむ、松本竣介『立てる像』(1942年)の印象深い情景は、そのまま三越マンションを左手に、田島橋越しに目白変電所を正面に見る風景として、21世紀の今日まで延々と引き継がれてきた。だから、この“原風景”が失われるのは、またひとつ下落合から貴重な描画ポイントの風情を失うようで、とっても寂しいのだ。
神田川下流の下戸塚(早稲田)に、1909年(明治42)に竣工した早稲田変電所(配電所)の写真を、ようやく手に入れることができた。この写真も、5年越しに探していたものだ。実際に早稲田変電所の姿を見るまで、わたしは目白変電所と同じようなデザインの建物を漠然と想像していた。だが、わずか4年ほどの竣工時期がズレただけでも、大正期に入った東京電燈による変電所の意匠は、まったく異なっていたのだ。
目白変電所は、当時の最先端だったと思われる鉄筋コンクリート工法だけれど、早稲田変電所は昔ながらのレンガ造りだったようだ。しかも、大正期の建物のほうが、明治期のそれよりもデザイン性を重視し、外観がはるかに洗練されていたのがわかる。早稲田変電所は、明治期にあまた造られた役所のような、相変わらず西洋レンガ建築の模倣延長のように見えるが、目白変電所のほうはハイカラでモダンなデザインが、設計当初から意識的に取り入れられていたのが歴然としている。早稲田変電所はとうに解体されてしまったけれど、目白変電所のほうは姿や役割りを変えながらも、今日までなんとか生き残ってきた。
2週間前から解体は始まっているようだが、いまだ解体しきれずに作業がつづいている。関東大震災と山手空襲とを乗りこえた目白変電所は、よほど頑丈に造られていたのだろう。メーヤー館Click!につづき、またまた大正時代の最初期に造られた建物がひとつ、姿を消そうとしている。
■写真上:左は、ありし日の東京電燈(現・東京電力)目白変電所。右は、解体中の様子。
■写真中上:左は、1947年(昭和22)に上空から撮影された、敗戦直後の目白変電所。敷地内には、現在とはかなり異なった建物が見えている。右は、栄通り側から見た解体の様子。
■写真中下:左上は、1942年(昭和17)の松本竣介『立てる像』にみえる目白変電所(部分)。右上は、同年に描かれた松本竣介『ごみ捨て場付近』の同変電所(部分)。左下は、街中を歩く松本竣介(右)と禎子夫人(左)。右下は、佐伯祐三の「下落合風景」Click!に描かれた同変電所(部分)。
■写真下:左は、1909年(明治42)に建造された早稲田変電所。右は、目白変電所の西側面。
いつもありがとうごさいます。>takagakiさん
by ChinchikoPapa (2007-10-25 00:06)
Krauseさん、お読みいただきありがとうございます。
by ChinchikoPapa (2007-10-25 00:06)
ごていねいに、ありがとうございます。>一真さん
by ChinchikoPapa (2007-10-25 00:07)
こちらにも、nice!をありがとうございました。>kurakichiさん
by ChinchikoPapa (2009-06-14 16:57)