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ようやく『下落合風景画集』Ver.4ができた。 [気になる下落合]

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 2008年1月のバージョン3を編集して以来、すっかり改訂をさぼっていた『下落合風景画集-下落合を歩く佐伯祐三-』Click!の最新版=バージョン4ができた。基本的に朝日新聞社の佐伯作品画像を使わせていただいてるので、前回のバージョンClick!は同社の知的財産管理センター(現・チーム)へと送ったが、今回は一部改訂なので省略させていただいた。
 朝日新聞社の『佐伯祐三全画集』(1979年)は、同社によれば画像を1950~70年代に撮影したカメラマンの著作権は切れたか切れる寸前であり、編集著作権はいまだに存在しているものの、このような個人的な研究目的の作品なら権利はいっさい不問にします・・・といってくれているので、心おきなく流用させていただいている。ついでに、たとえ販売するにしても、この形態なら同社の編集著作権料は微々たるもの・・・と、なかなか営業熱心なところは感心してしまった。w
 さて、今回の改定版Ver.4の大きな変更点は、もちろん「上落合の橋の附近」(寺斉橋バージョンClick!)だと想定していた作品の実物を、炭谷太郎様を介して日動画廊のご厚意で細見Click!させていただいたことにより、描画ポイントを八島邸Click!を含む「八島さんの前通り」シリーズClick!のバリエーション作品として、改めて位置づけしなおしている点だ。しかも、同作が下落合666番地の納邸の建設Click!と、午前中の太陽光の射角を検討することにより、1927年(昭和2)の少なくとも5月末から6月中旬までの晴れの日を選んで制作されていることが明らかになった。そして同作は、1927年(昭和2)6月17日からスタートする1930年協会第2回展へと出品され、会場写真Click!にもとらえられている。これにより、今回の『下落合風景画集』では、同作を「八島さんの前通り」と同じ流れのページに編集しなおし、描画ポイントを加えた巻末の空中写真にも変更を加えている。
 また、新たに発見された作品画像も追加している。この作品Click!の出所は、いまだ公にできないのだが、佐伯祐三研究者の資料類から他の貴重な一級資料とともにいただいたもので、個人的でクローズドな『下落合風景画集』へ掲載するぶんには、おそらく問題ないだろう。また、昭和初期の貴重な下落合地域の写真類も、前バージョンに引きつづき収録している。そして、同画集には当時の写真にとらえられた未知の「下落合風景」作品については、わたしのマズくて拙い再現画像などもあえて加えてあるけれど、そのようなページは目をつぶってご笑覧いただきたい。
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 『下落合風景画集―下落合を歩く佐伯祐三―』には、いまのところ48点の「下落合風景」画像と、描画ポイントが不明な「堂(絵馬堂)」Click!が1点、そして下落合の周辺風景として「踏切(踏み切り)」Click!が1点の、計50点を掲載している。だが、佐伯の「下落合風景」の点数がこんな少ない量でないのは、曾宮一念Click!藤川栄子Click!などの証言、あるいは展覧会場で撮られた写真類からもうかがい知ることができる。これから新たな作品が見つかるごとに、同画集を改訂していきたいと考えている。ただし、画像や写真の発色などを考慮して厚手のコート紙を印刷用紙として採用しているので、ページ数が増えるとコスト面での負荷が高くなる。そのあたり、ちょっと悩ましい課題なのだけれど、お小遣いの範囲内で収まっているうちは、なんとか改訂をつづけたい。
 さて、同画集とまったく同じように、もうひとつ私的な画集を編集してみたくなった。もちろん、佐伯祐三と同様に「下落合風景」を描きつづけた松下春雄Click!の、『下落合風景画集―下落合を巡る松下春雄―』だ。松下作品の同シリーズが貴重なのは、佐伯祐三よりも1年前の1925年(大正14)から「下落合風景」を描きつづけていることであり、いまだ緑が多い同地域のあちこちがとらえられている点だろう。それは、佐伯祐三と松下春雄とで制作に対する思想・姿勢やモチーフ選びの相違もあるが、佐伯が「下落合風景」を描きつづけた時期(1926~1927年)を通じて、下落合は未曽有の宅地造成と住宅建設の工事ラッシュにみまわれている。
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 同時期の下落合は、あちこちでむき出しの赤土や工事中のエリア、そして新築の住宅と消えゆく地付きの農家などが混在する、混沌とした状況が現出されていた。そして、佐伯はそれらの工事現場や造成・整地されたばかりの宅地、さらに消えゆく近隣の農家・旧家などを好み、意図的にモチーフに選んでタブロー化している。一方、松下春雄はそのような工事だらけになる前の下落合風景から描きはじめており、またモチーフも下落合の豊かな緑や大きな西洋館、庭園、学校、文化村などを選びつつ、独特な少女たちの姿を挿入しながら作品化を進めていった。すなわち、佐伯と松下とでは、まったく視座が異なる「下落合風景」がとらえられているのだ。
 おそらく、佐伯と同時期に制作していた笠原吉太郎Click!や、下落合のおもに東部を描いたと思われる二瓶等Click!の「下落合風景」シリーズ、そして少し古い時代の中村彝Click!曾宮一念Click!などの「下落合風景」とを併せれば、大正期から昭和初期にわたって下落合で展開していた風景を、全的かつ時系列的にとらえることができるはずだ。換言すれば、佐伯祐三がとらえた「下落合風景」がある意味でかなり特殊で偏ったモチーフを選んでいること、佐伯ならではの郊外風景として独特な視点からモチーフが選ばれている(下落合西部を中心にしか描かなかった)ことが、必然的に明らかになるだろう。松下春雄の『下落合風景画集―下落合を巡る松下春雄―』の制作は、そのようなテーマを明らかにする第一歩というわけだ。
 幸い、松下春雄のご遺族である山本夫妻Click!のもとには、当時の下落合あるいは西落合を記録した貴重なアルバム類が、戦災を奇跡的にまぬがれて現存している。また、松下春雄が描いた「下落合風景」シリーズの作品画像も、ほぼわたしの手元にそろっている。同画集を編集する時間さえでき、またお小遣いもたまったらw、ぜひ挑戦してみたいテーマだ。
歯抜けでんねの佐伯祐三.jpg 七星礎石.jpg
 余談だけれど、中村彝の下落合にちなんだ作品展覧会が、中村彝アトリエ記念館Click!の竣工と同期し、2013年の3月より新宿歴史博物館で「中村彝と新宿ゆかりの芸術家」展として予定されている。中村彝も、「下落合風景」作品(メーヤー館を描いた『目白の冬』Click!や一吉元結工場の『雪の朝』Click!など)を何点か描いているので、いまから同展の企画・開催がとても楽しみだ。また、アトリエの再現では、現存する部材や調度で利用可能なものはすべて活用するというお話を、以前に建築家の方々からうかがっているので、こちらも楽しみにしている。
 また別件では、おとめ山公園の拡張計画Click!の過程で、同公園の一画に相馬邸Click!の母屋にあった中庭Click!の風情を活かした庭園づくりが企画されている。それにともない、相馬邸の北斗七星Click!を模した母屋の屋根とともに、支柱の下に敷かれていた現存する七星礎石Click!をたいせつに保存します・・・というご連絡を、わざわざ新宿区からいただいた。おそらく、将門相馬家がほどこした下落合への巫術Click!ないしは結界(いま風にいえば、落合地域へいい気風・気味を呼びこむパワースポットづくり)のひとつなのだろうが、東邦生命の太田清蔵Click!や旧・大蔵省(田中角栄蔵相時代)もたいせつに保存した礎石でもあるし、神田明神の氏子であるわたしとしても素直にうれしい。w

◆写真上:『下落合風景画集-下落合を歩く佐伯祐三-』Ver.4の表紙で、ご覧になりたい方は下落合のカフェ「杏奴」Click!に置かせていただいているので、ご笑覧ください。
◆写真中:全44ページのボリュームがある、同画集のコンテンツの一部見開き。
◆写真下は、弥智子Click!を抱っこする笑顔の佐伯祐三。破顔すると「わし~、歯抜けでんね」の佐伯祐三は、なぜ前歯を失ったのかいま追いかけている最中なのだが、落合地域の歯科医に治療記録は残っていないだろうか? は、1912年(明治45/大正元)の相馬邸起工時より100年間も下落合の御留山に鎮座しつづける相馬邸の七星礎石。


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コメント 27

ChinchikoPapa

わたしも昨年、神田周辺に残る銅板建築をまとめて撮影してきたのですが、スタジオ撮影に通っていたころに比べて激減していました。nice!をありがとうございました。>kurakichiさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 18:33) 

ChinchikoPapa

シェップの本アルバムは、同年に出たトレーンの『Ascension』といっしょに手に入れた憶えがあります。impulse!を時系列で聴いていたころですね。nice!をありがとうございました。>xml_xslさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 18:42) 

ChinchikoPapa

うちの下町の墓石はみんなタテ型ですが、山手に新設した墓石はヨコ型です。ヨコ型のほうが震災のときには強く、下町のほうの墓石もちょっと考えてしまいますね。nice!をありがとうございました。>銀鏡反応さん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 18:49) 

ChinchikoPapa

わたしも巨大なマンタが泳ぐ姿を、下から眺めてみたいですね。
nice!をありがとうございました。>dendenmushiさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 18:52) 

ChinchikoPapa

イタリア料理店の店先におかれているイスでしょうか、佐伯の「カフェテラス」に描かれたイスにそっくりですね。w nice!をありがとうございました。>kiyoさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 18:56) 

ChinchikoPapa

「逢えない時間が愛育てるのさ~」じゃない和泉式部は、いつでもどこでも話せて、すぐに落ち合えてしまう現代向きの女性だったのかもしれません。w nice!をありがとうございました。>nikiさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 19:04) 

ChinchikoPapa

きょうの群馬県は、とてつもない暑さだったのではないでしょうか。暑中お見舞い申し上げます。nice!をありがとうございました。>NO14Ruggermanさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 19:06) 

ChinchikoPapa

先日、モモのパフェを初めて食べたのですが、思いのほか美味かったですね。nice!をありがとうございました。>ぼんぼちぼちぼちさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 19:08) 

ChinchikoPapa

ご訪問とnice!を、ありがとうございました。>ENOさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 19:13) 

ChinchikoPapa

トイレの水のゆくえを見ている、ネコのうしろ姿がかわいいですね。w
nice!をありがとうございました。>da-kuraさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 19:15) 

ChinchikoPapa

子どもたちの「夏の用語集」は、いろいろと思い浮かびますね。w
nice!をありがとうございました。>yutakamiさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 21:12) 

ChinchikoPapa

山門の上の鐘楼というのは、ほんとうに珍しいです。ほかに、ちょっと思い浮かびません。nice!をありがとうございました。>namnamさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 21:21) 

ChinchikoPapa

「事故・事件」「裏切り」「記憶喪失」「不治の病」・・・この4ワードのお約束で、ストーリーが回転していくような気がします。w nice!をありがとうございました。>TOMISAWAさん
by ChinchikoPapa (2012-07-16 21:27) 

SILENT

大磯の30年前の光景の写真集に撮られた、150箇所程の写真の撮られた場所に立って、現在の同じ大磯を撮ろうと思っていますが、なかなかです。当時のカメラの画角や、解像度も今ひとつ不明で、推理する楽しみが一番なのですが。そんなこともあってGPSロモを買いました。
by SILENT (2012-07-17 05:08) 

ChinchikoPapa

SILENTさん、コメントとnice!をありがとうございます。
大磯は東京に比べて3~4℃涼しいとはいえ、この季節はくれぐれも熱射病にご注意ください。わたしも、描画ポイント探しをしながら周辺を撮影してまわっていますが、さすがに真夏はピンポイントで場所が特定できるところ以外は、あまり歩きまわらないようにしています。
30年という歳月は、ずいぶん風景を変えてしまいますね。カメラを構えて立っていた空き地が消滅するだけで、すでにわからなくなってしまうケースもありそうです。1980年前後の詳細な地図があると、特定しやすいかもしれません。でも、昔の視点位置(描画や撮影のポイント)を推理して探すのは、いろいろな発見があって面白いんですよね。
by ChinchikoPapa (2012-07-17 10:08) 

ChinchikoPapa

五輪のボート競技は、1928年の第9回アムステルダム大会からなのですね。アムステルダム五輪の記念品が家に残ってますので、親戚の誰かが観戦しに出かけているのかもしれません。nice!をありがとうございました。>イデケンさん(今造ROWINGTEAMさん)
by ChinchikoPapa (2012-07-17 10:15) 

ChinchikoPapa

柳川に冷酒は、この季節たまりませんね。白ワインでも合います。
nice!をありがとうございました。>ばんさん
by ChinchikoPapa (2012-07-17 17:19) 

Marigreen

私は、落合地区に、えにしもゆかりもなく、また愛着もないけれど、Papaさんの記事の内容が面白くて読んでいるのですが、Papaさんがこのように落合地区に並々ならぬ執着を持っているのは、住んでいる地だから?それとも他に何かきっかけがあるのですか?
by Marigreen (2012-07-17 18:12) 

ChinchikoPapa

Marigreenさん、コメントをありがとうございます。
高校生のときにこの地域を歩いて以来、なぜか強烈に惹きつけられてしまいました。この地が舞台になったドラマの影響もあるのでしょうが、わたしにとって「気」配や「気」味がいい場所だ・・・と感じたのかもしれませんね。w
わたしの先祖代々の故郷とは、神田川の水脈でストレートにつながり、神田明神とは出雲神の拠点を経由してレイラインでつながり・・・と、いろいろ「気」味や「地」味がよく感じて惹かれたのかもしれません。
まさか、将門相馬家がほどこした巫術にかかったとは思えませんが、それはそれでまた、楽しい想像であり物語ではあります。ww
by ChinchikoPapa (2012-07-17 18:25) 

ChinchikoPapa

中井駅の踏み切りは、ウィークデーの朝は「開かずの踏み切り」ですので、なんとか北側にも改札が欲しいですね。下落合駅のように、無人の小さな自動改札があるだけでも、ずいぶん住民の方は助かると思います。nice!をありがとうございました。>suzuran6さん
by ChinchikoPapa (2012-07-17 19:32) 

ChinchikoPapa

「イクシール」とはよくいったもので、ワインを飲んだ翌日はかなり体調がいいケースが多いです。ただし、飲みすぎない翌日は・・・ですが。w nice!をありがとうございました。>fumikoさん
by ChinchikoPapa (2012-07-19 00:01) 

ChinchikoPapa

こちらにも、nice!をありがとうございました。>sonicさん
by ChinchikoPapa (2012-07-19 15:24) 

ChinchikoPapa

こちらにも、nice!をありがとうございました。>tree2さん
by ChinchikoPapa (2012-07-23 23:42) 

sig

これまでのChinchikoさんの研究が結実する方向へ動いていること、同慶の至りです。

by sig (2012-07-30 14:00) 

ChinchikoPapa

こちらにも、nice!をありがとうございました。>opas10さん
by ChinchikoPapa (2012-07-30 18:34) 

ChinchikoPapa

sigさん、コメントとnice!をありがとうございます。
七星礎石の保存のお知らせは、とても嬉しかったです。^^ 
by ChinchikoPapa (2012-07-30 18:36) 

ChinchikoPapa

こちらにも、nice!をありがとうございました。>ナカムラさん
by ChinchikoPapa (2012-08-09 23:32) 

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