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ビジネスモデルに悩む「神社の迷宮」。 [気になるエトセトラ]

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 都内にあるデータセンターのサーバラック群には、クラスタごとに「家内・交通安全」や「事故防止」などのお守りが下がっていることが多いと聞く。システムエンジニアリングを突き詰めると、最後はやっぱり神頼みというのもおかしいが、確かにシステムの構築から運用管理にいたる各Phaseには、運・不運がつきまとうのも事実だ。技術の論理的な整合性がとれていても、カットオーバー後や追加開発後も円滑に稼働しつづけるとは限らないのは、フィジカルなエンジニアリングの世界と同様だ。
 これらのお守りは、別にPMやSEが勝手に自分でこしらえてラックに下げているわけではなく、都内各地の神社で実際に授与(販売)されている「厄除け」のものだ。社(やしろ)の三大行事といえば、正月の初詣でに節分の豆まき、そして最近はやたら期間が長くなったように感じる秋の七五三だ。この3つのイベントだけで、お守りやお札(お神札)、おみくじの喜捨額(売上げ)は年間の80%前後になるという。
 確かに、わたしも家から独立して下落合に住むようになってから、昔日の下落合村総鎮守である下落合氷川明神Click!への初詣では欠かさないし、破魔矢を必ず購入……いや喜捨して授与いただいている。身体健康・交通安全のお守りも、買い替えては……もとへ喜捨しなおしては端末の周辺に置いている。自分の身体を守るというよりは、出雲のクシナダヒメClick!にPCの不具合防止と情報交通安全を祈願してのことだ。特に、彼女はスサノオとともにヤマタノオロチ退治に参加しているので、手をかえ品をかえて襲来するサイバー空間の襲撃にも、巫女的な威力を発揮すると見こんでの呪術的防衛ラインだ。w
 もうひとつ、家が代々氏子の江戸東京総鎮守・神田明神では、主柱である平将門霊神Click!の護符を買っては……いや喜捨して授与いただいては家の壁に貼っている。わたしは、別に神道の熱心な信者ではないが、データセンター(クラウド上)でシステムの構築や運用管理を担当するPMやSEと同様に、一種の「気休め」であり「ゲンかつぎ」であり、また「おまじない」のようなものにすぎない。ただし、そこらにあるどこの社のお守りでもいいというわけではなく、江戸東京のゲニウスロキ(地霊)であるオオクニヌシやクシナダヒメ、スサノオ、タケミナカタなど古い社にやどる出雲系の護符に限定している。
 各地の社(やしろ)で、お守りが大々的に売られるようになったのは、1964年(昭和39)の東京オリンピックがきっかけだったそうだ。世の中では「交通戦争」などと呼ばれ、交通事故が多発して1年間に数万人が事故死するような状況を迎えていた。そこで、お墓も檀家もなく収入の道が限定されている社では、「交通安全祈願」の授与品(販売品のこと)を増やしてなんとか売上……いや喜捨量を伸ばそうと企画したらしい。企業でいえば、マーケットニーズ(参拝者の欲望や要望)を的確に把握し、ユーザーが求める製品を開発して大々的にSPを展開していった……ということになるだろうか。
 少し前の情報だが、授与品製造メーカーへの取材記事を見つけた。2016年(平成28)刊行の「週刊ダイヤモンド」4月16日号に掲載された「神社の迷宮」から引用してみよう。
  
 いまや授与品販売は、参拝者や氏子を集めるための、貴重な手段となっている。/お守りでいえば、普及のきっかけは1964年の東京オリンピックで、自動車優先から歩行者優先社会へと移行する中で、「交通安全祈願」が登場したことだった。/その後、お守りの販売を拡大するため、祈願の種類が増えていった。縁結び、安産、健康にとどまらず、今では、受験、就職活動、果ては、出世、IT情報安全……などなど数え上げたら切りがない。加えて、色やデザインもどんどん派手になっている。「どこの神社もオリジナルの授与品で差別化したい。東京都内の神社を回って、同じお守りを見つけることの方が難しい」(授与品製造メーカーの担当者談)というくらい、多品種化している。(カッコ内引用者註)
  
 確かに、子どものころはどこの社(やしろ)でもお守りは似かよっており、中にはネーム(社名)を入れ替えただけで同一のデザインのものもたくさんあった。当時は少品種大量生産だったお守りが、社のSP戦略と他社との差別化(その社ならではの独自な付加価値付与)のために、限りなく個別受注少量生産に近づいてしまった様子が透けて見える。
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 また、そろそろ年間のインバウンドが3,000万人を超えそうな状況を迎え、日本語ではなく各国語によるお守りやお札などが登場しているらしい。破魔矢も、たいてい羽の色は白か赤と決まっていたものだが、最近では色とりどりのものが増えたという。これら授与品は、多品種少量生産のため手作業の工程が多く、製造元は中小企業が多いとのこと。お守りやお札の「効能効果」は、いつの間にか24h365dに限定されており、翌年にも改めて喜捨して手に入れなければならないという授与(販売)サイクルまで形成されている。
 以前、寺院の経営がかなり苦しく、檀家の減少に少子化や過疎化が加わり、21世紀は廃寺が続出するのではないかと記事Click!に書いたけれど、各地の社(やしろ)もまったく事情は同じだそうだ。墓地という檀家の人質ならぬモノ質(死者も人だから「人質」でいいのかもしれないが)を持たない社にとってみれば、賽銭と授与品、そして神前でのイベントや祭礼が収入のすべてであり、寺院以上に苦しい台所事情だろう。
 お守りやお札、おみくじ、破魔矢、熊手、ご朱印では経営を維持できないので、幼稚園や結婚式場を併設する社も多い。それでも経営は苦しく、町おこしならぬ“社おこし”の創意工夫で、その社ならではのオリジナリティを基盤とした“名物”を生みだそうとする動きも盛んだ。以前、拙サイトの記事で、親父が買ってきた江戸期の玩具「今戸焼き」Click!について触れたけれど、地元の今戸社では昔から江戸の町々に供給していた招きネコClick!発祥の地にちなみ、かわいい招きネコのキャラクターを創造している。
 今戸社は、1年間にお守りが20個(体)ほどしか売れない忘れられた社だったが、福をまねく招きネコと縁結びの神(イザナギ・イザナミの第七天神Click!)を奉っているのを“武器”に、参拝者を増やしつづけていった。この付加価値やSP戦略を企画・実施したのは、東京ではめずらしくなくなった巫女(女性神主)Click!だ。しかも、縁結びを単なる社への願掛けレベルにとどめず、男女の出逢いをあと押しする婚活プロモーション「縁結び会」を社務所で主宰している。2016年の時点で、すでに100回ほど開催しており60組のカップルが誕生しているそうだ。福をまねく縁結びの社を、出逢いの場所、婚活の場所として開放したアイデア勝ちの今戸社ならではのケーススタディだ。
 結婚式場を備える社(やしろ)でも、今日の嗜好に見あう新たな仕掛けをあれこれ模索中だ。神前結婚といえば、昔から祭壇前に和装した新郎新婦の席があり、床几を並べてそれぞれの親族が左右に向かいあって座るというような情景が浮かぶが、どうやらそのような結婚式スタイルを望むカップルの激減とともに、多種多様な施策を練っているらしい。
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 たとえば新潟の護国社(新潟縣護国神社)では、まるでキリスト教系か記念披露パーティー目的の複合施設での結婚式のようなスペースをデザインし、宴席で提供する料理も和洋を選べるフルコースと、なんだか目白椿山荘Click!目黒雅叙園Click!のような結婚式場を演出している。インテリアはすべてイタリア製で、披露宴会場は豪華客船をイメージした会場と、ニューヨークの5つ星レストランを模倣したデザインの会場とがあるそうだ。カップルの衣装も和洋から選べるので、もはや先述のような神前結婚の面影は皆無に近い。
 また、江戸期には芝居や物語あるいは見世物Click!、明治以降は小説や新派、映画などと連動した社(やしろ)の宣伝は存在したけれど、最近では人気アニメとのコラボレーションを追求する社も少なくないそうだ。同誌より、もう少し引用してみよう。
  
 神社がアニメの聖地となることで、町おこしにつなげるケースが増えている。「らき☆すた」の舞台になった埼玉の鷲宮神社、「ガールズ&パンツァー」の、茨城の大荒磯神社などがそうだ。/東京では、神田神社が「ラブライブ!」とのコラボレーションを展開している。「ラブライブ!」は、神社に近い秋葉原を舞台としており、キャラクターの一人が巫女のアルバイトをしている設定だったことから、この話が実現した。3月30日に神田神社を訪れてみると、「ラブライブ!」のラッピングカーがお目見えしており、キャラクターをイメージしたドリンクを求めて、ファンが境内の外まで長蛇の列を成していた。/昨年は、異例なことに神田祭のガイドブックに、「ラブライブ!」のポスターが掲載された。
  
 アニメ「ラブライブ!」自体をまったく知らないので、この記事の情景はチンプンカンプンなのだけれど、創立1300年祭も近い神田明神Click!の境内に、どうかアニメのキャラクターに扮した女子たちが大勢ウロウロするのだけはカンベンしてほしい。
 そういえば、ときどき下落合氷川明神社Click!がコスプレ女子で埋まることがある。まるで池袋の乙女ロードから、そのまま下落合にテレポートしてきたような女の子たちなのだが、どうやらコスプレヲタク女子の撮影場所として境内を提供しているようだ。経営が苦しいのは理解できるのだけれど、神田明神Click!と同じく創建が非常に古い下落合氷川明神も、コスプレ女子が境内にあふれてヲジサンが入りづらくなるのはカンベンしてほしい。
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 神田明神ではようやく売り出し……もとへ授与しだしたようだが、サイバー攻撃除けのお守りを作るというのはいかがだろうか。神田明神のケースは、「IT情報安全守護」と漠然としたお守り(表現もInformationと情報が重なりいい加減で古く、ICTの現場に詳しくない方が創案したのだろう)だが、下落合氷川明神では「ICT安全守護」シリーズとして、明確に差別化した「サイバー攻撃退散」お守りをはじめ、より具体的に「標的型攻撃除け」「ランサムウェア除け」「個人情報守護」「IoTセンサリング安全」「AWS鎮護」「azure鎮護」「PC・デバイス守護(Windows版/Mac版/Linux版)」(ただし1年ごとのバージョンアップ必須/爆!)など、目的別のお守りを作って喜捨を待てば、授与を求める企業の長蛇の列ができるかもしれない。もちろん、デザインは退治されたヤマタノオロチに刺さる櫛(かわいいクシナダヒメ必須)で、ICTに強い社として一躍脚光を浴びることはまちがいない………かな。

◆写真上:日本では「厄除け」「魔除け」のお守りも見かける、データセンターに並んだサーバやネットワークスイッチを収容するマウントラック群。
◆写真中上:江戸東京総鎮守の神田明神社で見られる情景いろいろ。
◆写真中下:新潟県護国社の情景で、下の2葉はまるで椿山荘か雅叙園のようだ。
◆写真下は、正月の初詣でで賑わう下落合氷川明神社。は、同社の拝殿。は、同社の神輿巡行。下落合氷川社でも、ときおりアニメ連携やコスプレ女子撮影会が見られる。

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