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負け犬のシネマレビュー(23) 『サンシャイン・クリーニング』 [気になる映像]

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いやはや、この先の20年はどうなるんでしょうねえ

『サンシャイン・クリーニング』(クリスティン・ジェフズ監督/2008年/米国)

 以前ここで取り上げた『リトル・ミス・サンシャイン』と同じ制作チームが手がけたサンシャインシリーズ第二弾。といっても“サンシャイン”は偶然の一致らしいが、こんどの家族もなんだかせつない。
 姉ローズは『魔法にかけられて』のお姫さま、エイミー・アダムス。高校時代はチアリーダーだったと言われたら確かにそんな風貌である。しかし高校のアイドルも三十路のいまはシングルマザー。ティーンエージャーみたいな安っぽい下着(こういうチョイスにスタッフのセンスが光る)で、輝ける時代の彼氏と不倫とは、ちょっとなさけない。
 妹ノラは『プラダを着た悪魔』でいい味出していたアシスタント役のエミリー・ブラント。いまだ実家で父と同居するパンクなフリーター役もお似合いだが、このパパ、アラン・アーキンこそ最高! 『リトル・ミス』でドラッグが止められず老人ホームを追い出されたおじいちゃんだ。ミスコンのアイドルをめざす孫娘にとんでもないショーの振り付けを吹き込んだ末、自分はさっさとあの世にいってしまうおちゃめな頑固者、今作でも調子に乗ってます。
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 やけに気になると思っていたが、孫息子が手に入れたレトロな双眼鏡を目にしたときの、にやけた表情と子どもじみた口調「ちょっと、それ貸してみろ」で謎が解けた。わが父にそっくりなのである。いや、このオジサンと父以上に身につまされるのが、結婚もムリ、何をやってもダメな姉妹なのだけれど。
 妙な作り話で甥を混乱させるマイペースが妹の特権なら、一生懸命は姉の宿命か。前向きだが冷静さに欠け、張り切れば張り切るほど空回りする要領の悪さはいかにも長女。不安を追い払うように鏡に向かって「あなたは強い、パワフル、何でもできる」と鼓舞する姿、いかにもアメリカと思ったら、最近日本もこんな感じの自己啓発が大流行りのようで。
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 ダメ、ムリなんて否定的な“ネガティブワード”が運を下げるらしい。なるほど、そうなのか…と、隣合わせた女子の話に聞き耳立てれば、できると自分に言い聞かせる、成功した姿をイメージする、念ずれば通じる、しまいには、いいことだからみんなに教えてあげている……なんだ、そりゃ。新手の宗教か、あるいはねずみ講か。しかも成功した経験がないから困っているのにどうやってイメージするのだ? 
 “失われた”10年が20年になりそうないま、ポジティブシンキングはスピリチュアルと結びついて新しい貧困ビジネスの誕生…って、あまりにも短絡的というか、手ぇ抜いてない? だってこういうの、1980年前後に日本版が出た『コスモポリタン』が毎号「成功するための○カ条」みたいな小特集を組んでいた。最新の自己啓発が30年前のアメリカの女性誌の焼き直しでは、ちょっと興ざめ。それにネガティブワードというが、目上のひとからのどうしてもできない頼まれごとには、いやーわたしにはとてもムリと断るしかない。もともと日本語は、ひとつの言葉にネガとポジの両面で表裏一体を為すものである。それをひとつの意味に集約してしまうのは情緒がない。
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 歴史は繰り返すというが、その時代を知るひとにとっては“失われた”時代も、十代二十代にはただの過去。20年前に生まれた子どもはそろそろ成人。かれらはこのどん底の現実を生き、この先も生きていかなければならない。本気でかれらを思うなら、机上の空論ではなく、その椅子を明け渡してあげるのがいちばんの近道だ。そう、この映画のパパみたいに。今作のパパ、エンディングはちょっとかっこいいぞ。
                                             負け犬
『サンシャイン・クリーニング』公式サイトClick!
飯田橋ギンレイホールClick! 11月28日(土)~12月11日(金) 同時上映『人生に乾杯!』


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負け犬のシネマレビュー(22) 『ヴィヨンの妻』 [気になる映像]

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 生きていさえすればいいのよ
 『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』(根岸吉太郎監督/2009年/日本)

 前作『サイドカーに犬』で、竹内結子がこの原作文庫を読んでいるのを見て、根岸吉太郎の次回作は『ヴィヨンの妻』に違いないと確信し、発表前からあちこちで言いふらした。公開が決まってからは観もしない先から、今年のナンバーワンだと会うひとたちに勧めまくった。
 なにしろあの古田新太から、あれだけの色気を引き出した監督である。浅野忠信の“大谷”がどれくらいダメでいい男か、観るまでもない。ところへもってきて浅野の離婚報道である。うわー、これ絶対、役に入り込んでいるなと思ったら案の定。宣伝用のポスターでは、大きななりして背をまるめ、松たか子に手を引かれるように歩いている。松が毅然と顔をあげているのに対し、はにかみ笑う浅野の目線は宙を泳ぎ、空いているほうの手にはさくらんぼの包み。これと予告編だけで、もう胸が張り裂けそうになる。
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 同級生が『人間失格』ってすごいよと言っているころ、私は、ふん、メロスを書いた作家なんて…と、見向きもしなかった。オッサンとチンピラばかりの映画館の隅っこで小さくなって、雨に降られて入れ墨が落ちる『まむしの兄弟』に、せつないなぁと、涙していた。R15なんて指定がない時代とはいえ、相当変わった女子中学生である。泣くべきときに泣いておかなかったせいか、中年以降は涙腺のフタがぶっとんだみたいに泣ける。困ったものだ。
 青春時代に出会うはずの太宰と対峙したのは、すっかりオバサンになってから。最初に読んだのが、岩波文庫の『ヴィヨンの妻・桜桃』だった。いや、もうまいった。ぜんぶで十編の短編に出てくる男みな最低で、最高。あたりまえである、これすべて太宰治という一緒に死んであげると言ってくれる女に事欠かない色男なのだから。自分の足もとも固められないくせして、言うことだけは理にかなって素晴らしい。やけ酒呷って八つ当たりに吐くヘリクツがまた、あまりにも自分勝手過ぎて怒るのを通り越し、笑ってしまう。
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 なにしろ松たか子演じた大谷の妻さっちゃんは、家に帰って来ない亭主に会うために、なんでもっと早く飲み屋で働くことに気づかなかったのだろうと言う天真爛漫(大谷に言わせれば「体がだるくなるほど素直」な女)さ。好きな男のために襟巻きを万引きするような女である。堤真一演じた元彼氏がほかの著作に出てくるのか、あるいは太宰の嫌いな“文化”とか“愛”なんてことばをシラフで口走る象徴としての役柄なのかはわからない。ただ松たか子のさっちゃんが“やられ”る相手を、行きずりの工員でなく、いまは弁護士となったかつての彼氏としたあたりに、いい意味でも悪い意味でも作り手の男らしさを感じる。とはいえ妻夫木聡が演じた工員はどこかで読んだ憶えのある「奥さんをください」なんてセリフを口走る屈託のなさで、この起用には納得できる。
 納得といえば広末涼子も然り。そのことしか頭にないような崩れ方と話し方がほんとにいやらしい。『ヴィヨンの妻』だと大谷のために身を持ち崩す年増女でしかない役を『桜桃』の数行とくっつけただけで、太宰の絶望しているのだか、ひとを食っているのだかわからない世界をみごとに体現した。松演じるさっちゃんの不自然なまでの清潔さが、裏を返せば、見切りをつけたらすぐ次の男に行けるいまどきのたくましい女に通じるなら、見かけばかり威勢のいい広末の秋ちゃんは、そこにいない男にいつまでも焦がれて死にかねない。
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 こういう対極にある女ふたりを真ん中に立て、女を引退したような顔をしながら大谷といいこともあったおかみさん、それこそコキュなのに自分には真似できない大谷に惚れ込んでいるみたいな飲み屋の亭主……なんて人間模様を描けてしまう根岸吉太郎も、ベテラン脚本家の田中陽造(と書きながら、ふと陽造は葉蔵からきているのかと思ったが、それは余談)も、相当大谷的。無邪気な顔して、ひとの心にずかずか入り込み、あんたが甘やかすから俺がつけあがってしまうんだ、なんてセリフを吐いてきたんじゃないんですかねえ。
                                              負け犬
『ヴィヨンの妻』公式サイトClick!
全国の主要映画館Click!でロードショー公開中


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負け犬のシネマレビュー(21) 『扉をたたく人』 [気になる映像]

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 見て見ぬふりをできない人たち
 『扉をたたく人』(トム・マッカーシー監督/2007年/米国)

 先日、四谷にある韓国文化院に「ハンとは何か」という講習を聴きに行った。
 なんでも韓国の韓というのは、あてるなら桓という字で、ハンという言葉には一、多、中、大、凡という5つの意味があるとか。神はひとつでなく、やおよろず受け容れるその思想は、ひとつでたくさん、まんなかへんで大きく、およそ、という、いいかげんといえばいいかげんなもの。したがって恨という漢字をあてた韓半島の感情を現す言葉も、単なる怨みではなく、いろんな意味が含まれるらしい。私はこれを、客のテーブルに水をこぼしておいて「ケンチャナヨ(大丈夫)」と笑ってすますウェイトレスに通じる適当思想と判断したが、こういういいかげんさこそ、いまみたいな時代に必要かもしれないとも思う。
 講師の金先生も言っていたが、教育や観光など文化交流のプロが必死でがんばっても破れなかった日韓の壁は、韓流ドラマとそのファンがいともたやすくぶっ壊した。まるで誤報によって崩れたベルリンの壁のように。人間も同じ。表に見せている面の下に別の面が用意されていて、それはほんのちょっとしたきっかけで表出するのだ。
 この映画の主人公である大学教授はほかにすることもないから去年の素材で今年も講義をするつもりだ。融通が利かず、やる気もないのは妻を亡くして落ち込んだ気分を引きずっているからだが、かれより忙しい教授に頼まれニューヨークの会議に出席しなければならなくなる。そこは奥さんと過ごした思い出の場所。ためいき混じりで長いあいだ留守にしていたマンションを開けると、見知らぬ住人が……というところから、物語ははじまる。
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 たいていのひとは初対面の相手に戸惑う。ひらたく言えば怖れる。海のものとも山のものとも知れない人は怖くてあたりまえ。持つ人と持たない人に分ければ、持つ者ほど持たざる者を怖れるだろう。しかし、このオジサン、戸惑いながらも怖がっていない。ここは長年教室で若者たちを見てきたからだろう。興味を持ち、ためらいながらも期待する。常に他人から見下されてきた人は当然猜疑心が強くなり、生まれ育ちに恵まれた人は物事をポジティブにとらえる。万国共通の感覚を、ありふれた風貌のリチャード・ジェンキンスがごくふつうに演じる。さすがアカデミー主演男優賞にノミネートされただけあって演技は上手いが、ジャンベ奏者のハーズ・スレイマンや、その母ヒアム・アッバス、彼女ダナイ・グリラも負けていない。ひとりの人間が一瞬にして持つ複雑に絡み合う感情を、ことばではなく顔が語る。それぞれの登場人物と、その表情には、そのときそのときのひとつではない心模様が満ちている。
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 フェラ・クティの音楽も、ジャンベの演奏も、予告編や前評判ほどインパクトはない。派手なアクションもない。人物の心理描写で魅せる。何度も見たような話なのに惹きつけられる。それは丁寧だからというほかない。一生物の家具を選ぶのに似た感覚とでも言おうか。オーギー・レンのタバコ屋みたいな店が出てくる街角や、路上で売られているモノや、売っている人…物語の背景も自然で落ち着きがあり、作った人のセンスが出ている。まさに引き算の美学。いい意味でアメリカらしくないこんな映画と、こんな目線を、ニュージャージー生まれの移民でもない、まだ若いトム・マッカーシー監督が持ち得たことに驚く。公開時の4館から270館まで拡大したというから、アメリカとアメリカ人、まだまだ捨てたものじゃないです。
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 『愛を読むひと』(2008アメリカ・ドイツ)もまた見て見ぬふりができない人の物語。お金をかけたわりにケイト・ウィンスレットの老けメイクが稚拙なのは差し引いて、ブルーノ・ガンツ扮する法科の教授が「判断は道徳的かどうかではなく合法かどうかで決まる」というセリフも聞き逃せない。
                                                                                          負け犬
『扉をたたく人』公式サイトClick!
飯田橋ギンレイホールClick! ~11月13日(金) 同時上映『愛を読むひと』
早稲田松竹Click! 11月21日(土)~27日(金) 同時上映『キャデラックレコード』
飯田橋ギンレイホールでは、駅ビルで「RAMLA×ギンレイホール シネマフェスティバル」Click!
を開催中。


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負け犬のシネマレビュー(20) 『イントゥ・ザ・ワイルド』 [気になる映像]

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あまりにも純粋な不器用さが痛々しい
『イントゥ・ザ・ワイルド』(ショーン・ペン監督/2007年/米国)

 エルサレム賞を受賞した村上春樹は、ちいさな卵と立ちはだかる壁があれば、どちらが正しくても自分はいつでも卵の側に立つとコメントしていたが、正誤を決定するのは誰なのかという疑問が残る。小説にしろ、映画にしろ、芸術とはマイノリティに身を置き、そこに視点を据えるのは言わずもがな・・・。
 しばらく足が遠のいていた映画館へ久しぶりに向かわせたのは、監督ショーン・ペンという名前。『ステート・オブ・グレース』(90)のすばらしすぎる演技に、こいつ、ただの不良じゃなかったんだと驚いた。そのとき感じた“もやもや”を、翌年自ら監督した『インディアン・ランナー』で解明し、95年にはジャック・ニコルソン、アンジェリカ・ヒューストンを迎え『クロッシング・ガード』を演出。ジョン・カサヴェテス亡き後のアメリカの影を継ぐのはかれをおいてほかにないと確信した。
 そのペンの名とともに「青年はなぜ荒野に消えたのか」という宣伝コピーを見て、また犯罪の話かと思った負け犬、あほですねえ。そうであろうとなかろうとショーン・ペンだもんね、と出かける負け犬、ミーハーですねえ。でも出かけた甲斐はあった。めずらしくクリント・イーストウッドが監督に徹しながら音楽があまりにもひどかった出演作『ミスティック・リバー』(03)の面目躍如、選曲がすばらしかった。
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 基本、リュック担いで自分探しに出かけるようなやつは裕福な家の子どもだ。家庭環境に多少問題があるにせよ、中流に生まれて成績優秀で将来を嘱望される人間がなぜひとりで荒野をめざすのか。望んだわけでもないのに毎日がスリリングでエキサイトな家庭内荒野に身を置いてきた負け犬には感情移入できないが、ここで泣かすぞと盛り上がる音楽には、ついもらい泣き。金持ちの息子に感情移入はできなくても、ないものねだりは人の情。自分を試してみたい気持ちはわかる。
 かつては私もコトバの通じない国で何カ月もひとりで暮らせるひとを超人のように思い、憧れた。しかし実際にリュックひとつで旅するひとと出会ってみれば、かれらも寂しがりで小心で、だからこそ孤独に身を置いてみたい自分と同じ弱虫だとわかる。理屈っぽすぎて日本じゃ使えない極端なインテリもいれば、頭はいいのに体が動かない口ばかり達者なのもいる。長居すればジャンキーにもなるし、お金がなくなれば1円2円高い率での両替に躍起になるしみったれにもなってしまう。
 そういう人間を目の当たりにし、また自分もそうなりかけているのに気づいたとき、帰らなきゃまずいぞと思うのが旅だ。しかし、この映画の主人公クリス・マッカンドレスは生真面目すぎた。潔癖すぎた。裏を返せば融通のきかない頑固者である。ジャック・ロンドンもソローもトルストイもいい。それはわかる。でも90年に大学を卒業したアメリカ人が、なぜトバイアス・ウルフを読んでいないのだ。その自伝を映画化した『ボーイズ・ライフ』でジャック・ロンドンに傾倒する主人公を好演したディカプリオは言う。
 「今日から僕のことをジャックと呼んでくれ」
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 クリスも、アレグザンダー・スーパートランプなんて名乗るくらいのユーモアはある。でも、きっとトバイアス・ウルフを読んでいなかったのだろう。『ボーイズ・ライフ』を読んでいたら、命の次に大切なお金や、車を捨てたりしなかったかもしれない。ひとのこと言えないが中途半端な読書は、中途半端な頭でっかちになるだけだ。
 同じロードムービーでも『テルマ&ルイーズ』とか『天使が見た夢』とか『ベーゼ・モア』なんて女が主人公の映画はどれも衝撃のラストまでにプライドどころか、見栄も意地もかなぐり捨てるのに。とはいえ、いま挙げた映画はクリスのようにストイックな旅ではないが。
 この旅に出たことをクリスは、ほんとうに一度も後悔しなかっただろうか。路上生活をしながら、旅の途中で出会ったひとの遠慮がちな忠告を聞いておけばよかったと、一度も考えなかっただろうか。くたくたになるほど体を酷使して働きながら、こういう経験をしたいがために旅に出たのだと、心の底から自分の選択に胸を張れただろうか。それを想うとせつないが、男のいう純粋は、命をかけて意地を張る“向こう見ずなあまのじゃく”のことらしく、ぜんぜん感情移入できないぞ。
 でも、嫌いになれないんだな、こういう男・・・。
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 DVD発売中。アラスカの大地を大きな画面で見たい方は、私の大好きな三軒茶屋シネマ(4月4日から『その土曜日、7時58分』と同時上映)へ。
 役者ショーン・ペンのアカデミー主演男優受賞作『ミルク』は4月18日から公開。ゲイを公言しながらカリフォルニア州で初めて公職選に公認されたハーヴェイ・ミルクの映画は、ガス・ヴァン・サントの本作以前にドキュメンタリー作『ハーヴェイ・ミルク』(84)もあるので興味がある方はこちらもどうぞ。
                                               負犬

『イントゥ・ザ・ワイルド』公式サイトClick!
「三軒茶屋シネマ」にて4月4日(土)~17日(金) 同時上映『その土曜日、7時58分』Click!


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負け犬のシネマレビュー(19) 『キャラメル』 [気になる映像]

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愛しきもの、それはけなげにして滑稽な女たち。
『キャラメル』(ナディーン・ラバキー監督/2007年/レバノン=フランス)

 PAPAさんブログご愛読の皆さま、お久しぶりです。新しい読者の方には、はじめまして。負け犬Click!です。
 最近映画観てないの? 久しぶりにお会いしたPAPAさんに訊かれて思い出したのが、数週間前に雨のなか観に行ったこの映画である。東京国際映画祭での上映から気になっていたのだが、なにしろ日本語も怪しい負け犬、英語字幕じゃとても無理とあきらめていたら、ちゃんと公開されていた。
 駆け込みでごらんになる方がいるかもしれないので、その先はあえて伏せるが『キャラメル』というタイトル、味わい深いダブルミーニングになっている。
 舞台はレバノン。ベイルートである。トルコはユルマズ・ギュネイが、イランはキアロスタミやマフマルバフが、街の様相や人びとの暮らしを伝えてくれた。しかしレバノン、その昔ベイルート発のAP通信で伝え聞いたニュースはどれもヘビーで、いったいどんな街なのか想像もつかない。
 旅行に地図を持参しない(おかげで連れは大迷惑だが)私、映画も極力予備知識を入れずに観るようにしている。それでも好評は耳に入り、目につく。期待しすぎて裏切られるのが嫌だからだが、期待した以上によかったものもある。そういう意味では期待どおりだった。
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 ま、ケニアの街なかをキリンが歩かないように、ベイルートもごくふつうの首都である。ドライバーは連日の交通渋滞にいらつき、若い警官は駐車違反の取り締まりに余念がなく、見放されたような空き地もあれば、いかがわしいホテルもある。外が雨降りだったせいか、照りつける陽射しと、砂が匂いたつような画面が気分を盛り上げてくれる。さらに舞台がエステサロンである。髪にしろ、顔にしろ、ボディにしろ、人に手入れをしてもらうひとときは何物にも代え難い至福の時間。高級でなくていいからリラックスしたい。その点このサロンはヘアサロンも兼ねていて、あまりお高くなさそうなのも私好みなら、ビビッドなコスチュームや派手なメイク、大げさなアクセサリーがいかにもアラブっぽくて素敵だ。年齢や家庭環境、宗教、性向…いろいろ違っても恋する彼女たちはみなチャーミングで、さらにうれしいことには、みなそそっかしい。
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 叶わぬ恋があれば、偶然が幸運に繋がってもすんなり運ばず、恋する対象は人とはかぎらず、華やかなスポットライトに恋した女は寄る年波に逆らって、さらに老いを強調する。あーあ。いい大人の女が四人も集まってそんな解決策はないだろ、と、ついツッコミを入れたくなる箇所は数知れない。そうして怒りながら目頭が熱くなるのは私が女で、頭ではまちがいとわかっていながら真剣に(傍から見れば滑稽きわまりなく)さらにまちがった方向に突き進んでしまうからだろうが、もうひとつは、この映画のようないい意味のおおざっぱさや、この物語のようになるようになるさという考えが好きだからである。よほど気が向いたときしか観ないが、ハリウッドの大作などは始まって何分後に展開をはじめ、何分後に逆転して…と秒単位で計算されているようで、観ているときは没頭するが余韻が残らない。しかし、この手の佳作(といってもアカデミー賞レバノン代表作にして世界30カ国で絶賛されている)は、制作中の熱気が伝染するように後を引く。
 そういえばカラメル、ほどよい火加減だと甘いお菓子になるのに、炎が強すぎたり、長いあいだ火にかけすぎると、ただの黒焦げの塊。それでも凶器のように尖った砂糖の固まりも口に入れてみなければ気が済まない。顎の内側をずたずたにしながら噛みくだくにはつらすぎ、飲みくだすには苦すぎて、間を持たせるために鍋底を引っ掻き回しても、一度こびりついた焦げ跡は水で薄めようと、熱を加えようと容易には剥がれない。これがまた、ねちねちしつこい。そう、これこそが豊かな人生に欠かすことのできない痛みと楽しみ、つまりビターでスウィートな恋である。
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 それにしても、ばりばり仕事をこなす女が優柔不断な男にハマるのが世界共通なら、いかにして若さを保つかも世界共通のようだが、もう決して若くなくなって思うのは「歳を取るのも悪くない」ではなく、「歳を取るのはなかなかいい」ってこと。主演女優にして、脚本、監督までひとり三役を手がけたナディーン・ラバキーの素晴らしさは自分と同年代の女性だけでなく、頭もお花畑状態のリリーとの生活を支えるため、日がな一日ミシンを踏むローズという60代の姉妹をキャスティングしたところである。人の服を仕立てるばかりで自分は着た切り雀の妹役を演じた、ジャンヌ・モローにも似たきりっとした美人、絶対かの国のベテラン女優だと思ったら、ごくふつうの主婦だというから驚くが、ラスト姉妹の映像は最高にせつなくて素晴らしい。
                                                                                          負け犬
『キャラメル』公式サイトClick!
「渋谷ユーロスペース1」にて3月20日(金)までロードショー


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