下落合のパイ屋さん「ローリングピン」が、3月末でお店を閉めるそうだ。聖母坂のマンションに住んでいたころからだから15年間、このお店のパイを食べつづけてきたことになる。1990年ごろ、この場所にあったアパートの1階に、あまり目立たなかったけれど本格的なアメリカンパイのお店がオープンした。諏訪谷と呼ばれた洗い場跡Click!から、大六天の坂道を登り、池の上教会Click!を眺めながら散歩するのが、休日の楽しみのひとつとなった。ここでパイを食べたあと、ブラブラと下落合の尾根伝いを、まだ幼かったオスガキどもを連れてよく散歩したものだ。
 戦後、米軍のPXでバイトをしていた親父の影響からか、根っからのパイ好きなわたしは、さっそく食べに出かけたのだが、中でも夏季にしかできない「フレッシュチェリーパイ」と、「フレッシュピーチパイ」が絶品だった。東京に数あるパイ屋さんの中で、こんな美味しいパイを、わたしはそれまで食べたことがなかった。最初は小さなお店だったのだが、アパートの1階をすべてぶち抜いて、たくさんのお客が入れるようになった。下のオスガキが、小さいころ卵アレルギーだったので、パイから卵を抜いてなどという、無茶なお願いをしたこともある。それでも、ほんとうに美味しいアップルパイができあがってきた。このころから、パイを1ホール単位で注文して、取りにうかがうことも多くなった。
 
 開店から5~6年がすぎたころ、家を建てて聖母坂から引っ越してしまった。それでも、散歩のついでに近くを通ると、必ず立ち寄っていた。夏休みの間だけ、軽井沢のルヴァン美術館へ出店されてから、散歩の途中で今度はいつ開店するのかと、ドアに貼られた営業スケジュールを何度も確認したのを憶えている。やがて、休日に「パイ屋さんへ行こうよ」とオスガキどもを誘っても、友だちやガールフレンドと遊ぶのに忙しくなって、断られることが多くなった。そのころから、わたしの母親を連れてよく食べに出かけたものだ。当時、パイ屋さんの庭先にウロウロとやって来る、たくさんのネコたちを観察するのも面白かった。

 先日、閉店してしまうとのウワサを聞いて、さっそくオスガキどもを連れてお邪魔をした。わたしの身長をゆうに超えるほど巨大化した、かつてのパイ大好き少年どもを見て、ご夫婦ともに驚かれていた。わたしも、パイを食べてアッという間にすぎた15年の月日を実感・・・。
 目白店(下落合)は閉店してしまうが、軽井沢のほうへ新たに開店されることをうかがった。軽井沢と中軽井沢のちょうど中間あたり、軽井沢バイパス沿いに新しい「ローリングピン」がオープンするそうだ。ネットでも注文を受ける予定とお聞きした。とりあえず、まったく食べられなくなってしまうということではなさそうなので、ひと安心。軽井沢方面へ出かけることがあったら、ぜひのぞいてみたい楽しみポイントがひとつ増えた。

 帰りがけに、さっそくチェリーパイを1ホールお願いする。残念ながら、採れたてのさくらんぼを使った、わたしの大好きなフレッシュチェリーパイには、まだ時期がかなり早すぎる。軽井沢高原の「ローリングピン」には、わたしがまだ一度も食べたことのない、あこがれのハックルベリー(こけもも)パイが、はたしてメニューに追加されているのだろうか。

Rolling PinサイトClick!
■写真上:パイファクトリー「Rolling Pin」。大好きだっただけに、3月末までというのは寂しい。
■写真中上:左は、お店の入口。右はチョコレートパイ(左上)、バナナパイ(右上)、洋ナシパイ(下)。
■写真中下:わたしが目のないチェリークリームパイ。苦いコーヒーとの組み合わせが絶品だ。
■写真下:軽井沢の新「ローリングピン」開店予定地。