いくらカメラを向けても、はっきり写らない被写体がある。わたしの撮った写真では、オーブClick!は比較的はっきりと写るけれど、幽霊さんはサッパリとらえられない。夢二と下落合を散歩した、笠井彦乃さんの「ゆふれい」Click!はコメントを寄せてくださったけれど、いまだ写真には姿を見せてはくれない。同様に、哲学堂Click!の幽霊さんを写そうとがんばってみたのだけれど、どうしても鮮明に撮影することができないのだ。
 こんなことを書くと、とうとうChinchiko Papalogはイカレちゃって、心霊サイトになってしまったのだ・・・と思われるかもしれないが、井上哲学堂(現・哲学堂公園)の哲理門にある幽霊像が、うまく撮れないのだ。イタズラされるといけないので、細かな目の金網がかぶせられているせいもあるのだろう。この前も挑戦したのだけれど、うまく撮影できずに白っぽくぼんやりと、まるで幽霊のように写ってしまった。・・・あ、幽霊さんか。(爆!) 幽霊のお姉さんの隣りには、天狗のおじさんもいるのだが、こちらも撮影がむずかしい。今度、昔の一眼レフカメラシステムを引っぱりだして、重装備で挑戦してみたいと思っている。
 この哲理門に並ぶ幽霊像と天狗像は、哲学者であり哲学館(現・東洋大学)の創立者である井上円了が、彫刻家に発注してこしらえさせたものだ。1904年(明治37)に完成した哲学堂を訪れると、寺の山門で迎える仁王像のごとく、幽霊さんと天狗さんがお出迎えしてくれる。いくらチャレンジしても、ロングヘアで細面な幽霊のお姉さんは恥ずかしがりやなのか、なかなか鮮明に姿を見せてくれないので、制作された当初の写真を手に入れた。井戸からおでましの彼女の様子は、応挙以来の足がなくて日本標準の姿をしているのだけれど、当初は美しく(?)彩色されていたのが見てとれる。現在の彼女は、残念ながら色がかなり褪せてしまい(年を取ったという意味でなく)、よりすさまじいその様子は、ますます幽霊のようになってきた。・・・あ、幽霊さんだ。(爆!)
 
 井上円了は、ほんとうに幽霊やお化けの類が、わたしと同様に大好きだったらしく、彼らに愛情さえ感じていたようだ。ついでにといっては失礼だけれど、哲学堂公園の向かいにある荒玉水道Click!の水道タンクClick!の隣り、蓮華寺へ寄ってきた。井上哲学堂の主、井上円了の墓を見るためだ。山門を入って左手にある、その墓石のかたちがすこぶるふるっている。「井」の「上」に「円」が載って、「了」(しまう=死んでいる)という、まるで江戸下町のシャレとばしだ。本人が指示をして、生前にデザインを決めていたのだろう。
 落合地区とその周辺には、幽霊やお化けをめぐるフォークロアがごまんと眠っている。目白は『東海道四谷怪談』の舞台Click!だし、面影橋の南蔵院と下落合は『怪談乳房榎』の事件現場Click!そのものだ。でも、中にはかわいそうな幽霊さんの話もある。昭和初期、上落合の廃屋に現れた女性の幽霊は、宵の口から界隈をのんびり散歩していたところ、お遣い帰りの子供に発見されて石をぶっつけられ、シクシク泣きながら閉じられた門から廃屋の中へスッと吸いこまれている。きっと、哲学堂の哲理門に住みついた幽霊さんのような風情だったにちがいない。めったにお目にかかれない稀少な存在なのに、どうしてもっと大切にしてあげないのだろう。
 
 わたしが出かけた日、哲学堂は各建築の開放日だったようで、主要な建物のほとんどを中まで見学することができた。さっそく、六賢人を奉る六賢台へと登ってみる。昔は樹林が低く、かなり遠くまで見わたせたのかもしれないが、現在では大きくなった樹木に視界を邪魔されて、ほとんど見晴らしがきかない。それでも南側のバッケ(崖線)側は、ほんの少しだが見透かすことができた。木々の葉が落ちる冬場なら、妙正寺川をはさんで上高田をはじめ、葛ヶ谷(西落合)から下落合(中井2丁目)の目白崖線を見わたせるかもしれない。そして、昔ながらに富士山Click!も見えるだろうか?
 妙正寺川へと抜ける、バッケに通う「経験(唯物)坂」を弁証法的に折れ曲がりながら「唯物園」へとくだり、それと東西で対峙する「唯心庭」の「観念亭」をへて、葛ヶ谷御霊神社へと抜けてきた。(メチャクチャでわけがわかんないし(^^;) 幽霊のお姉さんよりも、井上円了のアタマの中のほうが、よっぽど怖いかもしれない。

■写真上:左は、明治末から哲理門に住む幽霊のお姉さん。中は、やってきたばかりのころの若い(?)彼女。右は、世界一周旅行の途中、カルカッタで撮影された若き日の井上円了。
■写真中:左は、哲学堂の真向かいの蓮華寺にある井上円了の墓。右は、できたばかりのころの井上哲学堂。崖線下に拡がる上高田の農地から、丘上に建ち並ぶ哲学堂の全景を眺めたところ。
■写真下:左は、開放されていた六賢台。右は、最上部から時空岡や四聖堂あたりを眺める。