今年は、暮れの大晦日から正月2日にかけ、年賀のお客を含むのべ20人の雑煮を毎日3食ぶん作りつづけて、クタクタに疲れてしまった。昨日、ようやく人が減って解放されたのだが、もう雑煮は見るのも匂いをかぐのもイヤだ。以前から、うちの雑煮が大好きで、その作り方を教えてくれと娘に頼まれていたので、大晦日の夜にさっそく料理教室を開いた。
 うちの雑煮は、江戸東京は日本橋Click!の雑煮だが、日本橋といってもけっこう広いので、同じエリアの異なる町内では違う雑煮やお節が食べられているのだろう。よりピンポイントで規定すれば日本橋の東部、江戸期は米沢町あるいは薬研堀、明治期からは(西)両国、その後は東日本橋Click!と呼ばれている大川(隅田川)端に近接したエリアだ。大橋(両国橋)Click!の西詰め一帯、柳橋Click!とともに両国花火大会Click!見物の“特等席”の街、川上稲荷Click!が鎮座する街でもある。
 さて、雑煮に使用する材料は、出汁(だし)の素材を別にすると大根、人参、椎茸、長ネギ、小松菜、三つ葉、ゆず、そして鴨肉だ。大根は、落合大根Click!が欲しいのだけれど、売ってないので世田谷産のものを使い、人参は昔から滝野川人参と相場は決まっているのだが、もはや王子界隈に畑など存在しないので千葉産のものを用意。椎茸は山梨産のもの、長ネギは多摩地区の産と、できるだけ同じ富士山の火山灰土壌の地域のものを揃える。小松菜は、江戸期は葛西産が名高いが、いまでも千葉の同地域近くで作っているので容易に手に入り、三つ葉は狛江産、ゆずは下落合産を使用する。鴨肉は、わたしは大好きなのだがかなり高価だし、家族には脂が多くて香りも濃厚すぎると不評なので、たいがい鶏肉を代用することになる。
 
 (1) まず、鍋に作るだけの量の水、それに酒、みりんを適宜少量加え、大きめな出汁昆布をよく濡れぶきんで拭ったあと、鍋に入れて浸しておく。これで、あらかじめ2~3時間放置。
 (2) 鍋を煮立て、沸騰したところで浸しておいた昆布を取り除き、削っておいた鰹節を多めに入れる。昆布出汁が好きな方は、別に取り除かなくてもいい。鰹節を削るのが面倒なら、別にフリーズドライの“鰹節の素”でもかまわない。出汁がとれたら、鰹節を漉して再び火にかけ、沸騰したら細切りにした大根と人参を加えて煮る。
 (3) 灰汁をよく取り除きながら、大根と人参が半煮え状態になったら、薄切りにした椎茸と、斜め切りにした長ネギを加えて、再び煮つづける。表面に浮かぶ灰汁取りは、頻繁に・・・。
 (4) 酒、みりん、塩、したじ(醤油)などで、好みの味付けに整える。隠し味に三温糖を少々。塩は、もちろん旨みのある海からとったものを使用し、したじもアルコールの入らない本醸造のものを使う。味つけは塩がメインで、したじは香りや汁色の好みで加える。(薄口・濃口どちらでも)
 (5) 鶏肉は、あらかじめ酒に漬けておいてもいいし、また香ばしい雑煮にするには表面を軽く焼いておくのもいい。生のまま鍋に入れると鳥の出汁が全体に拡がるので、それがイヤな方は事前に鶏肉の仕込みが必要だろう。わたしは、生のまま鍋に入れてしまうことが多い。鶏肉はぶつ切りではなく、味が染みやすいように、また箸で摘みやすいように薄く長めに切っておく。
 (6) 手順(2)~(4)のどこかで、中鍋に水を入れて塩を少々加えて沸騰させ、小松菜を軽く茹でておく。茹であがったら水気をよくきり、ひと口大のサイズに切りそろえて保管のきく容器へ。同時に三つ葉も、生のまま3~4cm幅で切りそろえておく。
 
 
 (7) 手順(4)からあまり間をおかずに(野菜類を煮すぎないうちに)、(5)の鶏肉を鍋に加え、沸騰するのを待って灰汁を取り除く。同時に、鶏肉(鴨肉)から出た脂もていねいにすくい取る。長ネギがシャキシャキするのが好きな方は、この時点で長ネギを加えてもいい。
 (8) 鶏肉の色が変わり、煮汁に踊るようになったらすぐに火を止めて、そのまま30分ほど放置。(煮すぎては香り味ともに台無しなので、火加減とタイミングがもっとも難しいところ)
 (9) 餅は昔から日本橋、というか江戸東京の下町Click!では白餅は少なく(江戸期には白米や白餅の食習慣で脚気になり、生命を落とした人も多かったからだろう)、玄米餅をはじめ粟餅、黍餅などの雑穀餅Click!が一般的だ。昨年は、玄米餅が主体だったので、今年はつきたての黍餅を買った。これが、家族や来訪者全員に大好評。付け焼きにしても香ばしくて、玄米餅よりも美味しく感じる。餅は網の上で、食べる分だけ火であぶっておく。(オーブンでもいいが、電子レンジはNGだ)
 (10) 雑煮は、少し冷め気味なので弱火で温める。お椀には、あらかじめゆずの皮片を好きなだけと、あぶった餅をいれておき、上から雑煮を手早くよそる。
 (11) 最後に、茹でておいた小松菜をひとつかみ載せ、生の三つ葉をトッピングして出来あがり。
 
 
 手順のそのつど、娘には味見をさせて調味料の加減を感覚でおぼえてもらった。大さじX杯、小さじX杯とかでは、料理は覚えにくいからだ。ちなみに、今年も家には獅子舞いがやって来なくて、下落合に江戸東京の馬鹿囃子Click!(ばかっぱやし)の音色が響かなかったのが、ちょっと寂しい。

■写真上:日本橋東部に伝わる鴨肉ではなく鶏肉で代用した、今年のわが家の下町雑煮。
■写真中上:左は、昆布と鰹節で出汁をとる。右は、大根と人参を加えて煮立て灰汁をすくう。
■写真中下:上左は、大根と人参が半煮えの状態で長ネギと椎茸を加える。上右は、鶏肉は細長く薄切りにしたほうが美味しい。下左は、鶏肉を加えたあと浮かんでくる灰汁と脂はより根気よくていねいにすくって取る。下右は、小松菜はあらかじめ塩茹でにしてひと口サイズに切っておく。
■写真下:上左は鶏肉を加えてひと煮立ちしたら、上右は鶏肉が煮えすぎないうちに火を止めて味を染みこませる。下左は、ゆずの皮片と焼いた黍餅をお椀へ。下右は、少し温め返しておいた鍋から雑煮をよそり小松菜と三つ葉を添えて、ハイ出来あがり。