札幌の「ミュンヘンクリスマスClick!、ほんとうに美しい。わたしも、クリスマス・デコレーションには思い入れがある。わたしが6~7歳のころ、親父が奇妙なクリスマス・デコレーションを買ってきてくれた。ランプのガラスの中にアルコールが入っていて、電源を入れ下のぼんぼり部の豆電球が点くと、その熱で温められたアルコールが沸騰する。アルコールの沸点は78度と低いので、ボコボコといろいろなかたちの気泡がすぐに湧きあがるのだ。気泡のかたちは千差万別で、電源を入れるごとにまったく違った趣きになる。おそらく、横浜は元町あたりの輸入雑貨店か、親父が学生時代までアルバイトをしていた米軍のPXで仕入れてきたのだと思う。わたしは、さっそく不思議な「ボコボコ」の虜になってしまい、毎年クリスマスが来るのを心待ちにしていた。
 だが、わたしが高校生のとき「ボコボコ」はついに壊れてしまう。棄てるのは惜しかったが年齢的な狭量さも手伝い、クリスマス・デコレーションなどにかかずらわっている気持ちの余裕もなかった。それ以来、すっかり忘れていたのだが、オスガキが産まれてクリスマスツリーを再び飾るようになると、ふっと強烈な「ボコボコ」の懐かしさに囚われてしまった。郷愁の古きよき60年代の「ボコボコ」。どうしてもまた欲しくなり、3年間探しつづけた。横浜の元町はもちろん、東京のクリスマスグッズの専門店や、米軍が駐留する横須賀、横田、福生と、クリスマスが近づくと方々を探しまわった。おそらく都内の主要クリスマスグッズ店で、行かなかったところはないだろう。しかし、どうしても見つからない。1960年代の米国製品なのは間違いなさそうなのだが、だいいち製品名がわからない。店の人に「ボコボコありますか?」と訊くわけにもいかず、いちいちその形状や仕掛けを説明して廻ったが、ついに発見できなかった。そもそも「ボコボコ」を作っていたメーカーが、とうに潰れてしまったのかもしれない…そう思って諦めた。

 それからまた何年かがすぎ、子供と一緒に何気なくTVを観ていたときだ。映画『ホームアローン』(1990年)をやっていて、おもちゃ屋のシーンがあった。ショウウィンドウに飾られた大きなクリスマスツリーから店内へパンする映像で、わたしの目はある1点に釘付けとなった。「ヲヲッと! ボコボコだ!!」。…ということは、1990年現在まで、米国では「ボコボコ」が製造され存在していたことになる。さっそく普及し始めたばかりのインターネットで、米国の検索ポータルへアクセス。もう少しで、キーワードに「BOKOBOKO」と入力しそうになって苦笑したが、ようやく探し当てることができた。正式な製品名は「Bubble LightClick!で、わたしが子供のころに持っていたのは1955~1960年型式だということもわかった。さっそくメーカーに注文して、ようやく船便で手に入ったのが1998年。実に、「ボコボコ」を探し始めてから10年の歳月が流れていた。