わたしも、スギ花粉症だ。小学生のときからだから、もうかなり年季が入っている。30歳を過ぎてからは少し軽くはなったが、それでも春先のムズムズは変わらない。東京に漂うスギ花粉は、多摩地区はもちろん、山梨や長野あたりからも飛来しているらしい。
 北西風にのって春先、直接まともにやってくるのが東京の西部、多摩・奥多摩地区のスギ花粉だ。戦後の復興期に、首都圏の雑木林は、手っ取り早くおカネになるスギ林に、のきなみ植え替えられていった。でも、安い輸入材が建築市場に出まわるにつれ、スギ林はそのまま顧みられなくなって放置されることになる。経済価値のない山林はいっさい手入れがなされず、大量のスギ花粉の発生源となっていった。また、本来の雑木林では起きえなかった土砂崩れ災害などが、スギ山では頻繁に起きるようになる。
 放置されて荒れるにまかせているスギ林を、本来の武蔵野広葉樹(落葉樹)の雑木林へもどそう・・・というのが、「どんぐりの森」づくりのトラスト基金運動だ。ひとくちに「どんぐり」といっても、コナラ・ミズナラ・クヌギ・・・と、武蔵野には実のなるさまざまな広葉樹がある。これらの苗木を、1本あたり1,000円で購入すると、「どんぐり銀行」が「どんぐり貯金小切手」というのを発行してくれる。この小切手を持っていくと、どんぐりの苗木に交換してくれたり、植樹のイベントに参加できたり、忙しい人は苗木の植樹を“おまかせ”したりできるのだ。しかも、自分のどんぐりの木には、好きな名前をつけることができる。自分の名前でも、家族や恋人、ペットの名前でもいいのだ。植樹の際には、小さなネームプレートを針金で結んでくれる。

 森林再生・・・というには、まだまだ小さな運動でほど遠いかもしれないけれど、少しずつでも人工のスギ林を減らし花粉の飛沫を抑えて、武蔵野本来の広葉樹林帯へもどしていこうというのは、いつか誰かがやらなければならない課題だろう。「どんぐり」をいま植えたからといって、来年からスギ花粉の飛沫量が減るわけではない。枝葉が繁って大きく成長するまでには、20年30年の年月が必要だろう。一度壊してしまった森を再生するには、膨大な手間と時間がかかる。わたしは、おそらく生きてはいないだろう。だが次の世代で、花粉症や災害がほんの少しは減っているかもしれない。
 ジャン・ジオノの『木を植えた男』や宮沢賢治の『虔十公園林』などが思い浮かぶが、確かに、誰かが小さな一歩を踏み出さない限り、現状は悪くなりこそすれ、まったくなにも変わりはしないのだ。春の植樹(5月22日)はすでに終了したが、今度は秋の植樹が予定されている。

●主・共催:日本・教育げんき塾/親子炭焼き体験教室実行委員会
       NPO法人日本エコクラブ
       DAIGOエコロジー村
●助成:国立オリンピック記念青少年総合センター
●後援:東京都教育委員会/八王子市教育委員会
●応募方法:http://www11.ocn.ne.jp/~nemo/donguri.htm

■写真:上が「どんぐり小切手」、下が実際に植樹をした苗木。新宿から参加した方の、ネームプレートがついている。