大正時代には、意外な歌にとんでもない踊りがついていたようだ。なにかのパロディで、ふざけているのかと思ったら、「少女期にはいつた子供」には、それにふさわしい「少女小曲舞踊」を踊る必要がある・・・などと、いたって大マジメな「研究」なのだ。こういう大きなお世話ヲジサンがいるから、いつの時代にも「少女」たちから嫌われる。
 1925年(大正14)に発行された『主婦之友』には、馴染みのある「小曲」に無理やり踊りをつけてしまったページが掲載されていた。そして、踊りの「振付」の先生が「研究」成果を書いた、押しつけがましいこんな文章が載っているのだ。
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 童謡舞踊はすでに澤山研究発表せられましたが、小曲舞踊は、まだ研究せられてをりません。私は少女期にはいつた子供には、矢張それに適した小曲舞踊の方が、深味もあり、優しい気分も出てふさはしいやうに思ひます。それが私の少女小曲舞踊を発表した動機であります。動作は在来の優美な日本舞踊の長所に、体育的な泰西舞踊の長所を加へ、表現にも充分少女の持つ気分を現すやうに注意いたしました。こゝに発表しました『故郷の空』は、皆様がよくよく御存じのもので、スコットランドの民謡として有名な曲であります。振付には、あくまで新鮮味を加へました。どうかお試みください。動作は全体を通じて、なだらかに、ブツブツと切れることのないやうに願ひます。
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 「少女の持つ気分」ったって、少女ごとにそれぞれ個々人で気分が異なるだろう。いまなら、「・・・ってゆ~か~、大きなお世話なんだよ、ヲジサン自分で踊れば~」と、「少女期にはいつた子供」たちから言われてしまいかねない。いや、現代でなくても、当時でさえ「なんだこりゃ?」だったのだろう。親の世代でさえ、こんな踊りは知らないようだし、まったく普及しなかったようなのだ。では、さっそく『故郷の空』を踊ってみよう。よろしかったら、みなさんもご一緒にどうぞ。

 ♪夕空晴れて 秋風吹き~

 ♪月影おちて 鈴虫なく~

 ♪思へば遠し故郷の空~ あゝわが父母いかにおはす~

 ♪すみゆく水に 秋は来れ~

 ♪玉なす露は すゝきにみつ~

 ♪思へば似たり故郷の野辺~ あゝわがはらから誰と遊ぶ~
 「印牧すゑを」という先生が、いっしょうけんめい研究して考案したらしい。最後の部分が、少し踊り足りなくてさびしい気がするのだけれど、きっと疲れちゃったのだろう。まるで、リンリンランランみたいだ。(わからない方、失礼)
 だけど、この振り付けで実際に踊った女の子たちがいたのだろうか? 踊られた方がいらっしゃいましたら、情報お待ちしています。(^^;

■写真上:昭和初期の少女たちのあこがれ、10歳(1934年・昭和9)のデコちゃん。
■写真下:いずれも、『故郷の空』の「少女小曲舞踊」写真より。