村山知義Click!と村山籌子Click!のコラボによる、創作絵本・童話の作品は膨大な点数におよぶ。そんな中で、ふたりの童話集や絵本集でもあまりお目にかからない作品を、ある方が探し出してくださった。この童話や挿画には、作者の名前さえ記載されていない。匿名による掲載なのだけれど、ひと目ですぐに村山夫妻の作品だとわかるものだ。
 1935年(昭和10)に発行された、『主婦之友』2月号のコラムのような欄から引用してみよう。
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 犬さんと猫さんの旅行
 犬サント猫サン テクテク旅行ダ 犬サンハカケルシ 猫サンハノソノソ
 コマツタコマツタ
 自動車ニノツタラ 犬サンハホエダシ 猫サンハヒツカク 運転手ハオコルシ
 コマツタコマツタ


 仕方ナクナク 自動車ヲ下リテ 犬サンノ背中ニ 猫サンガノツカツタ
 コマツタコマツタ
 雪ガフリダシ 犬サンハ大ハシヤギ 猫サンヲフリオトシタ 猫サンハ泣キダス
 コマツタコマツタ


 アンマリ寒イノデ タキ火ヲシタラ 犬サンハアツガツタ 猫サンハヰネムリ
 コマツタコマツタ
 猫サン目ヲサマシタ 犬サンガヰナイ 犬サンハヨソノ犬ト 散歩ニ行ツテヰタ
 コマツタコマツタ


 犬サンノシツポニ 猫サンガツカマツタ 犬サンガカケ出シヤ 猫サン雪ダラケ
 コマツタコマツタ
 ヘトヘトニツカレタ ホテルヘ行ツテ 牛乳ヲノンダラ トテモ高クテ
 コマツタコマツタ


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 この童話、犬さんを村山知義、猫さんを村山籌子に置き換えて読んでも面白い。性格のずいぶんちがうふたりが、いろいろなシーンですれ違っている様子を想像できておかしいのだ。なぜ作者名さえ記載されていないのか、いろいろ想像がふくらむけれど、村山知義は転向後の演劇活動に身を入れ、村山籌子は生活費稼ぎのつもりで書いたのだろうか?
 それにしても、すぐに猫さんを置いてどこかへ行ってしまう犬さんには、コマツタコマツタ・・・。

■写真:1935年(昭和10)発行の「主婦之友」2月号に掲載された、村山知義・籌子作と思われる『犬さんと猫さんの旅行』。作者名がどこにも見あたらず、匿名の童話で掲載されている。