今年の夏ごろにお話をうかがって署名をしていたのだが、ほかのテーマにかまけて記事にするのをズルズルとサボっていたら、いつのまにか初冬になってしまった。この11月、すでにNTT都市開発(株)の表明によれば計画自体が「抜本的な見直しを検討する」というフェーズに入ったようだけれど、まだまだ油断できない状況がつづいているようだ。目白駅前のコマーズビル跡に計画されている、高さ100mの複合型高層ビルの問題だ。
 マンション(83戸)と事務所、そして低層階は店舗という28階建て、98.95mのビルはまさに鉛筆状をした細長い“ペンシルビル”そのものだ。その姿を想像するだけで、周囲の風情との調和や景観が台無しになる・・・という課題のはるか以前に、そもそも強烈な不安や恐怖に襲われる。これまで何度もここに書いてきたけれど、東京は地震のないマンハッタン島とは本質的に異なるのだ。これだけの高さのビルが大揺れしたら、いったい半径どれぐらいのエリアに、ガラス片や外壁の破片などが飛び散り、地上へと降りそそぐのだろうか? ひょっとすると、住居に使われている階からは、家具調度類が飛び出して落下してこないとも限らない。周辺の施設や家々ばかりでなく、目白駅の利用者や走行中の山手線、路上の通行者なども重大な危険にさらされることになる。
 つまり、これだけ高いビルが造られるということは、災害時に当のビル自体のみが被害を受けるにとどまらず、その周囲を巻き込んだ広範な“二次被害”が生じる危険性が拡がる・・・ということなのだ。この問題は、東京の下町Click!における「再開発」(という名の「町殺し」Click!)でも、これまでさんざん言われてきたことではなかったか。
 それでも、「違法」でなければ高層ビルはどんどん建ちつづけて止まらない。いまや、30年以内に70%の確率で起きると予測されている、震度6強あるいは震度7の地震を想い描くとき、みんな心のどこかで漠然とした不安を感じているのだろうが、高層ビルあるいは“見栄え”のよいガラス張りを主体にしたビルの危険性について口にする建築関係者は少ない。わたしは、漠然とした不安などではなく、いま目の前にあるきわめてリアルな不安であり恐怖だと思うのだけれど・・・。
 
 「目白駅周辺の環境を守る会」Click!が発行しているパンフレットから、引用してみよう。
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 計画は、東京都の「総合設計」制度を適用することで、規定の容積率にボーナスを得ようとしています。敷地の一部目白通り沿い部分は、商業地域のため高さ制限がありません。敷地全体に対する容積率を高さ制限のない部分に集約させ、事実上活用できない建物背面を「公開空地」扱いすることで、いわば特例の「総合計画」を利用した超高層のペンシルビルが可能なのです。近年の急速な規制緩和の産物ともいえます。
 しかし・・・日本全国どこでも、土地の「有効活用」を促進し、同じような無機質なビル開発を進めようとする時代遅れの発想に基づいた計画を、この目白の街は受け入れてよいのでしょうか?
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 またしても、「特例」という言葉が登場している。どこか近くで、さんざん聞かされた役所の条例ワードだ。明らかな建築基準法違反のビルやマンションであっても、自治体からこじつけや屁理屈にまみれた「特例」認可が一度下りてしまえば、脱法行為が一夜にしていきなり「適法」となってしまうカラクリ。下落合の“タヌキの森”Click!事例もそうだし、1970年代からつづく下町の数多いケーススタディでもそうだけれど、そこで犠牲にされるのはたいていの場合が安全性なのだ。
 それは、ビルやマンションに入居する人々が、災害時の安全性を担保されない・・・という問題にとどまらず、そのエリア全体の安全性を犠牲にして計画が進められる・・・ということなのだ。当該のビルに入居した人たちは、いわば主体的に“運命”を選択・受容し、自身で責任を背負うわけだからいいのかもしれないが、その地域に「ミーム(文化遺伝子)」Click!を微塵も持たない業者が、「Apre´s moi le delugeClick! (我が亡きあとに洪水よ来たれ=あとは野となれ山となれ)」・・・と売り逃げしていったあと、“二次被害”に巻き込まれる可能性が飛躍的に高まる周辺住民や、たまたまその場に居合わせて危険にさらされる人たちにとってみれば、たまったものではないのだ。できるだけ安全な街づくりを行うのも、地域の大きな責任ではないだろうか。

 「目白駅周辺の環境を守る会」では、街頭で反対署名を集めているほか、上掲リンクのWebサイトから署名用紙Click!をダウンロードして郵送するという方法も採用している。関心がおありの方は、ぜひサイトへアクセスしてほしい。
 また、新宿区建築課の「特例」認定により、明らかな建築基準法違反の「重層長屋」(実質はマンション)が建てられようとしている“タヌキの森”だが、東京高等裁判所の判決Click!が12月24日に予定されている。こちらの動向にも、ぜひご注目いただきたい。ひとたび「特例」認定を受けてしまえば、それが危険だらけのマンションだろうがペンシルビルだろうが、なんの問題もなく建築できてしまう現状に、改めて戦慄をおぼえる。

■写真上:目白駅前に、100mのペンシルビルが建設された場合の景観イメージ。
■写真中:再開発が予定されている目白駅の斜向かい、川村学園の西隣りに建つコマースビル。
■写真下:「目白駅周辺の環境を守る会」のパンフレットに掲載された再開発のエリアマップで、ビルに隣接して東側には川村学園が、北側には目白幼稚園が存在している。