以前、豊島区郷土資料館前で工事がストップしている、「補助73号線」について記事Click!にしたことがある。人口が50年後には1億人を割りこみ、若者のクルマ離れも進んで台数が減りつづけているのに、新たな道路を造ろうという時代錯誤な土建的発想の行政が、いまだ放棄しないでいる計画だ。国ではようやく滅びつつある、利権が見こめて甘い汁をたっぷり吸える腐臭ふんぷんたる族議員や族役人が、時代遅れの東京都にはまだ残っているのだろうか? しかも、排気塔から排ガスをまき散らす、山手通り(環6)の二重化=地下高速道路が完成したばかりだ。
 この「補助73号線」について、気になる光景を少し前にLawさんからご指摘いただいていた。わたしも、目白通りにつながる不忍通りから、早稲田の甘泉園公園にかけて目白台の“既成事実”づくりを、ずいぶん前から目の当たりにしているので、非常に気になっているのだ。先日、ピーコックストア前にあった大正期からの古い交番Click!がなくなり、アスファルトで塗り固められている。目白通りをはさんで向かいにある金物屋さんも移転して、12月中には解体されることになっている。金物屋さんの西隣りは、少し前からすでに空き地の状態がつづいていた。
 下落合側を観察すると、ピーコックストアからテアトルアカデミー、そして旧メーヤー館Click!跡(日本聖書神学校)の前までの大幅なセットバックが完了し、駐車場や空き地状態となっている。もう、すでにお気づきだろう。西池袋1丁目でストップしている「補助73号線」の道幅と、いま目白3丁目から下落合3丁目にかけて「確保」されている空き地とは、東西の幅が近似しているのだ。東京都は、西池袋から新宿へと抜ける眠っていた(もはや時代遅れな)「補助73号線」事業を、そろそろ積極的に推進しようとしているのではないか。道路建設は、なにも西池袋から順次南へ伸びてくるわけではない。目白台のケーススタディを挙げたのは、建設できる部分から道路を敷設してしまい、既成事実を積み重ねて住民を“サンドイッチ”にしては立ち退きを迫っていく常套手段からだ。東京都は、なにも土地取得を都として公に進めるとは限らない。民間の不動産屋へ土地取得を委任し、のち一気に都有地として買い上げていく。だからこそ、そこに利権をめぐる腐敗構造が発生しやすいのだ。

 
 目白台の緑が多い閑静な住宅街に、明治通り(環5)以外の大きな幹線道路ができるなど、30年前には誰も信じなかっただろう。ましてや、戦前から計画されていた「環4」事業計画が、このような時代状況で見直しもされずに生きていたとは、さらに信じられなかったのではないか。ところが、早稲田の甘泉園公園の東側に突然大きな道路が出現し、都は早大グラウンド坂のバス路線まで早々に変更してしまった。この道路は、もちろん北側から目白通りまできている不忍通りと連結するためであり、由緒ある小布施坂周辺の緑が多く残る目白台(大岡家下屋敷跡Click!)の閑静な住宅街が、大通りの中心街となってしまうのももはや時間の問題のように思える。
 ちょうど、目白文化村Click!が戦後に山手通り(環6)と十三間通り(新目白通り)で十字に分断され、高層マンションが林立する幹線道路沿いの街と化しつつある現状と同じだ。道路は、なにも順序よく造られていくわけではない。南北で道路建設を進め、買収が難しそうな計画地域をサンドイッチにし、やがて有無を言わせず用地買収を迫る。現在、南の甘泉園と北の不忍通りとに挟まれた目白台は、すでに櫛の歯が抜けるように家々が立ち退き、計画上の斜面敷地は駐車場や空地が拡がる荒涼とした風景が拡がっている。この計画では、目白通り沿いの児童遊園も潰すつもりだろう。
 
 まず、目白通り沿いで計画敷地を確保し(既成事実づくり)、豊島区の目白3丁目から上屋敷Click!周辺の住宅街=旧・雑司ヶ谷6~7丁目(西池袋)にかけてお住まいのみなさんを、サンドイッチにしようとしているのではないか? さっそく、移転される金物屋さんへ取材にうかがってみると、かつて配られたアンケートなどから道路計画はご存じだったが、道路計画の進捗についてはなにもご存じない様子だった。でも、その話題を避けるような態度をされていたのが、やや気がかりなところ。
 前の記事でも書いたけれど、ここに幅40m近い道路が造られてしまえば、静かな住宅街としての、そして豊かな歴史がやどる街並みとしての旧雑司ヶ谷上屋敷も目白町も、下落合も戸塚町(現・高田馬場3丁目)も“おしまい”だ。巨大な道路ができれば、街のイメージが損なわれるばかりでなく、地域の一体感が失われ、コミュニティとしての人々の交流や地場のアイデンティティが薄れつづけ、人の流れが断ち切られてしまい商業的にも大きなダメージを受けるのは、さんざん下町の事例で経験済みなのだ。ゆっくり静かに散策を楽しみたいとも、のんびりお茶でも飲みながらすごしてみたいとも、ショッピングを楽しみたいとも、また住んでみたいとも思う人々は激減するだろう。住みにくさをおぼえ環境の悪化を感じた人たちは、より緑が多く閑静で暮らしやすい“ミーム”Click!が色濃く残る地域へ次々と移転し、下町Click!の“町殺し”Click!(小林信彦の用語)と同様のことが、目白・下落合界隈でも起きるだろう。巨大な道路は、人々を素通りさせこそすれ、決してその地域に人々を集合させる“街づくり”につながらないことは、下町の多くの事例が物語っている。
 
 ただの妄想や杞憂であってほしいものだが、このところのピーコックストアや聖書学校周辺の様子は、あまりに危機的でリアリティがありすぎる。この文章が「オオカミ少年」記事であってほしいと願うばかりだが、東京都が本気で計画を強引に推し進めようとするなら、広島・鞆の浦の“歴史リソース”および“景観”をテーマとする地裁判決後の今日、少なくとも下落合では人命やグリーンベルトをめぐる最高裁判決Click!も間近な「タヌキの森」どころではない、目白崖線に通うもっとも古い由緒ある鎌倉期からの坂道・七曲坂Click!を、鼠山Click!道筋とともに丸ごと消滅させようというのだから、ありとあらゆる手段を尽くした猛烈な反対運動が東京都を待ちうけることになるにちがいない。

■写真上:道路の東側拡幅が想定できる、旧メーヤー館前から目白通りを望む。
■写真中上:上は、目白通りのピーコックストアと補助73号線計画の想定予定コース。下は、目白台の小布施坂周辺の「環状4号線」計画予定地の現状。
■写真中下:左は、閉店し12月末までに解体が予定されている金物店(正面)を元交番のあった位置から。右は、金物店に隣接して少し前から空き地状態がつづく敷地。
■写真下:左は、北側から下落合方面を見る。右は、セットバックを終えている日本聖書神学校。