あのな~、きょうはな、四ッ谷の新宿歴史博物館Click!ちゅうとこへな、わしの個展、観にきてん。わし、いつもオンちゃんClick!乗せた俥(じんりき)のあと追うてな、目白駅まで走っとったさかい、きょうもな、カフェ杏奴Click!から高田馬場駅まで走ったんやで。そやからな、わしが二度目の巴里へいく年にでけた、西武電車ァゆうのんか、一度も乗ったことあらへんねん。
 一緒に寝起きしよるソミヤはんがな、「アトリエに疎開させてた、いつかサエキくんがニワトリClick!と一緒に寄こしたイーゼルClick!も、個展会場に初見えしてるてんだから、ここはサエキくん、オレも一緒に行くわ」ゆーたんやけどな、中村センセが横からな、「ボクをひとりぼっちにするのかね!」言わはんねん。ソミヤはん、しょうがあらへん、中村センセのお守りで留守番ですわ。
 高田馬場からな、新宿駅で中央線に乗り換えたんやけど、ドえらい大きな駅んなっててな、わし、迷子んなってもうた。ソミヤはんと区役所来たときもな、ふたりして昔の歌舞伎横丁やのうて新しくでけた歌舞伎町で迷子ですわ。山手線の駅にな、「佐伯祐三―下落合の風景―」展のポスターClick!ぼちぼち貼ってあんねん。わし、なんや知らんメッチャ嬉しゅうなってな・・・。中央線乗って四ッ谷で降りたらな、そこにもポスターぎょうさん貼ってあんのや。中にはな、もう盗まれたポスターもあるちゅう話聞いたで。・・・盗まれたんやのうて、岸田センセClick!に「殴ってやる!」言われて、破られたんやったかいな? ・・・まええわ、気にせんとこ。
 
 あのな~、新宿歴史博物館ゆ~のんはな、たいした建物でっしゃろ。わしが1回目の個展Click!開いた、炭屋から本屋にならはったばかりのな、2階家の紀伊国屋書店とはエライ違いやねん。正面の入口にな、ポスターに似とる図案で、展覧会の大けな看板立っとってな、わし、おのれでゆうのもなんやけど、つい感激して見とれてしもたわ。正面玄関入るとな、右側の壁んとこにな、懐かしいわしの知り合いパネルがいくつも貼ってあんねん。・・・ちゅうてもや、ソミヤはんに中村センセはな、いまも杏奴で一緒やさかい、ち~とも懐かしいことあらへんし。そやけど、マエダくんやサトミくん、スズキくんにコジマはん、カワグチくんは昔の仲間やさかいな、えろう懐かしいわァ。・・・あっ、忘れたらあかんがな、また叱られるわ。ちゃんとな、オンちゃんパネルもあんねんで。
 
 正面に受付があってな、ビーナスはんが「いらっしゃいませ、こんにちは!」言わはんねん。
 「あのな~、美術展の会場は、下でっか?」
 「はい、そこの階段を下りられたら、すぐ正面でございます」
 「さよか、おおきに」
 「あの、ご覧になるのでしたら、チケットは300円でございます」
 「・・・あ、あのな~、わしの個展ですやん」
 「あの、お待ちください! どなたさまも、入場料300円をいただくことになっておりますの」
 「あのな~、昔、わしが描いた下落合の絵がな、展示されてまんの」
 「はい、存じております。でも300円、まあお安い!」
 「・・・わしの個展、おのれでカネ出して観るちゅうのも、けったいな話やで」
 「はい、ありがとうございます。佐伯先生が使われていたイーゼルも、史上初の展示ですのよ」
 「さよか、そら珍しいこっちゃ、見たいがな~! ・・・そやから、わしの画架だちゅうねん」
 「まあ、サエキくんは、ちゃんとボケツッコミもおできになるんですのね。ほほほ」
 「ほな、おおきに。わしが描いた『下落合風景』より高いチケットで、観さしてもらいますわ」
 「そうだわ、会場に黒いニワトリを7羽、放し飼いにすればよろしかったですわね」
 「・・・・・・」
 「お作品の下で卵を産んでコケコッコー、お客様はもっと喜ばれたでしょうかしら?」
 「勝手にしなはれ」
 なんや知らん、わし、受付のビーナスはんに遊ばれてもうた。
 
 会場はな、第1室の左側の壁がな、アトリエで描いた自画像含む肖像画類やで。正面の壁2面がな、ぜんぶ二度の巴里作品なってまんのや。入って右側の壁がな、『滞船』Click!やオンちゃんの『エリカの花』Click!が架かってまんの。部屋のドまん中にはな、初公開のスケッチ類が、ぎょうさん展示されてますわ。ほいで奥の第2室がな、ほとんど『下落合風景』Click!ちゅうわけや。『戸山ヶ原風景』Click!と『K氏(笠原吉太郎)像』Click!もここにあんのやで。そやそや、イーゼルもこの部屋やし。
 ぎょうさん人がおったさかい、わし、つい嬉しゅうなってな、図録買(こ)うてもうたわ。1,000円ちゅうたら、シベリア鉄道ん乗ってな、ゆうゆう巴里まで行ける値段やで。これ持ってな、今度、下落合ゆっくり歩いたろう思うてんねん。下落合かて、ドえらい変わりようやさかい、たまに迷子んなってまうわ。・・・ほな、わしの83年ぶりの個展、観にきてや。待っとるで~。

■写真上:「佐伯祐三 下落合の風景-」展ポスターを見る、「テニス」Tシャツを着たサエキくん。
■写真中上:左は四ッ谷駅前を歩く、右は新宿歴史博物館前の大看板を見入るサエキくん。
■写真中下:左は、歴博前のサエキくん。右は、1927年(昭和2)に薪炭屋から本屋に商売換えした、竣工直後の新宿紀伊国屋書店。佐伯の個展が開かれたのは、この建物の2階だった。
■写真下:左は、会場に展示されている曾宮一念アトリエClick!に保存されていた、「ソミヤ」の筆跡が残る佐伯イーゼル。もちろん、曾宮自身もこのイーゼルをアトリエで使用Click!しているが、付着した古めの絵具を詳細に分析をすれば、佐伯が使用していた個々の絵具について、さまざまなことが判明するかもしれない。右は、歴博近くのカフェでひと休みするサエキくん。