またしても、気になる動きが目立ってきている。1972年(昭和47)より落合地域にずっと建っている新宿区立中央図書館が、早稲田大学理工学部の南隣り、旧・西戸山中学校の跡地へ移転するというのだ。落合地域から大きな図書館がなくなってしまうのは、いつも利用しているわたしとしてもたいへん残念だ。もし、中央図書館が移転するとなると、新宿区の西北部の落合地域には、中野区との境界に近い小規模な西落合図書館のみとなり、図書館の空白地帯が生じてしまいかねない。逆に、旧・戸山ヶ原とその周辺には、大久保や早稲田を含めて多くの図書館が東西に並ぶことになってしまう。でも移転の懸念は、そんなところにだけあるのではない。
 現在、豊島区の郷土資料館前で止まっている、補助73号線Click!の落合地域における建設計画は、目白通り沿いのピーコックストア横から入り、まっすぐ南へ七曲坂をつぶして貫通し、中央図書館へとぶち当たることになる。だから、中央図書館の移転は、区のみならず東京都のどこかの役人の机上でも、道路計画と絡めて意識されていると見なさなければならない。事実、中央図書館の南側は空き地、西側は駐車場になったままだ。また、先にご報告Click!した目白通り沿いの金物屋さんは、すぐには壊せないコンクリート建築が規制されていることを見ても、いまだに東京都は補助73号線計画をあきらめていないことが歴然としている。
 もしピーコックストア横から中央図書館まで、新目白通りと同じ道幅をもった道路が貫通したらどうなるか、ほんの少しでも想像してみてほしい。すでに下落合派出所(目白通り交番)は消滅し、旧・メーヤー館Click!の前はなぜかセットバックが、期せずして完了している。あとは、道の西側の拡幅(という名の住宅地破壊)だけだ。そのまま南へと下れば、日本聖書神学校の南側周辺にある住宅のすべて、林泉園Click!の西側一帯にある住宅のすべて、落合中学校のグラウンドの一部と旧・三輪邸Click!の跡に建つ住宅群、落合地域でもっとも古い鎌倉時代からといわれる七曲坂Click!と、その沿道にある住宅のすべて(タヌキの森Click!さえ引っかかるかもしれない)、氷川明神の境内の一部と坂の突き当たりにある建設会社の周辺、そして中央図書館の「跡地」から南へ・・・と、旧・下落合地域の東部(現・下落合地域)が東西へまっぷたつに分断されてしまうことになる。
 
 目白文化村Click!の第一文化村と第二文化村が、1960年代末の十三間通り(新目白通り)の貫通により、統一された住宅地としてのまとまりや景観が大きく削がれたのと同じことが、下落合地域で繰り返されようとしている。いや、問題は落合地域のみにとどまらない。下落合でコトが進んでしまえば、豊島区の上屋敷(あがりやしき:現・西池袋2丁目)や目白3~4丁目にかけての住宅街が、以前にも書いたように文字どおり“サンドイッチ”状態に置かれてしまうことになる。30年前には、目白台の閑静で瀟洒な住宅街に、大通り(環4)が縦断することになるなど誰も信じなかっただろうが、甘泉園横の大通りと不忍通りとに挟まれた区画では、いつの間にか既定の事実として空き地が拡がっているのと同様のことが、目白や下落合で起きてくるだろう。
 そもそも、この時代遅れの道路敷設計画は、これからも自動車がどんどん増えつづけるという前提のもとに企画され、戦後すぐのころに立案されたものだ。だが、これからの50年、道路を走るクルマは減りつづける一方で、増えることなどありえない。また、もし補助73号線計画が強行されれば、新宿区が進める目白崖線のグリーンベルト保存、中山新宿区長が進める「7つの都市の森構想」Click!のひとつがオジャンになるばかりでなく、豊島区側の上屋敷公園を含めて、かろうじて残された貴重な緑がまたもや都内から消えてゆくことになる。

 先年、総務省統計局が発表した日本の総人口の推移、および都市部での影響が大きいとみられる労働力人口の推移予測表を見て、衝撃を受けた方も多いだろう。2050年(わずか40年後だ)には、総人口は1億人を割りこみ9,000万人台となり、労働力人口はさらに減少率がひどく4,800万人台まで落ちこんでしまう。人口比では現在より25%近くの減少であり、労働力人口にいたっては現状の3分の2となってしまうのだ。この減少率を考慮すれば、日本の道路上を走るクルマの台数は、当然、人口推移に比例して急減することになる。総人口が減り、労働力人口が激減しているにもかかわらず、クルマだけが増えつづけるという非論理的な考えがまかり通るのは、ゼネコンと結んだ族議員のアタマの中と、都による道路計画の机上ぐらいのものだろう。
 数量的にみれば、現在が人とクルマのピークの時代なのだ。つまり、どう考えても貴重なわたしたちの税金を湯水のように投入し、都内へクルマの増加を前提とした道路を造りつづける理由など、もはやどこにも存在していない。それでも東京都は、目白台の住宅地をつぶしていまから85年前、大正末から昭和初期にかけて策定された環状4号線を造りつづけ、補助73号線の計画をあきらめようとはしない。おもに財政上の理由から、多くの道路計画が見直され廃止となっているにもかかわらず、一部の役人がうまい汁を吸え、一部の土建業がうるおうのかどうかは知らないが、将来性のない社会投資へエンエンと膨大な税金を注ぎこもうとしているのだ。

 中央図書館の移転にともない、利用のしやすさやバリアフリーなどが課題になっているようだが、落合地域にはもっと大きな課題が、その先に横たわっている。これからは、電子書籍の貸し出しというテーマが本格化してくるのだろうから、図書館がどこにあろうと家に端末さえあれば、それほど不自由は感じなくなるかもしれない。でも、下落合1丁目の中央図書館跡地には、ぜひ30年や50年では解体できそうもない、コンクリート造りのより強固な新宿区の施設を建設してもらいたい。別に区の分庁舎でもデータセンターでも学校でも、美術館(爆!)でもかまわない。都の補助73号線計画が廃止になるまで、ちょっとやそっとじゃ撤去できない施設が望ましいと思うのだ。

◆写真上:旧・西戸山中学校跡地へ移転が予定されている、下落合1丁目の区立中央図書館。
◆写真中上:図書館の南側にできた空き地(左)と、西側に拡がる駐車場(右)。
◆写真中下:目白通りから中央図書館まで、下落合を縦断する補助73号線の計画ルート。
◆写真下:2050年までの労働力人口の推移を予測した、総務省統計局の「労働力調査」より。