旧・牛込区(現在の新宿区東部の地域)を中心にしたタウン誌が、何年か前から発行されている。現在第6号までが出ている、季刊誌『牛込を愛する人の為のコミュニティマガジン/[今昔]牛込柳町界隈』だ。1947年(昭和22)までつづいた牛込区といってもかなり範囲が広く、北は早稲田鶴巻町から山吹町、東は飯田橋駅前の新小川町から下宮比町に神楽坂、南は広い市ヶ谷の全域から若松町、河田町に余丁町、西は戸山町(旧・戸山ヶ原Click!)全域を含むエリアで、現在の新宿区では約3分の1弱の面積に相当する広さだ。
 『[今昔]牛込柳町界隈』Click!(無料)は、新宿区内の駅や主要施設などに置かれているので、目にされた方も多いのではないだろうか? 先月、同誌の編集長である伊藤様より、「早大の演劇博物館に保存されている、ドラマのシナリオについての記事を流用させていただきたい」という電話をいただいた。第6号では、早稲田大学とその界隈を特集するとのことで、早大の演博(えんぱく)に寄贈され保存されている、貴重な演劇資料にスポットを当てたものだろう。
 

 ドラマのシナリオとは、もちろん森繁久彌Click!が出身校である同大学に寄贈した1973~74年(昭和48~49)に放映されたNTVドラマで、下落合を舞台にした『さよなら・今日は』Click!だ。このドラマのことが、発行数の多い情報誌的なメディアで本格的に取り上げられるのは、おそらく35年ぶりぐらいではないだろうか? 寄贈のシナリオは、同ドラマの第14回「正月の結婚式」(脚本・岡本克巳/演出・小杉義夫)のもので、森繁自身が「高橋作造」役で客演している。そのほかに同ドラマには山村聰Click!、浅丘ルリ子、山田五十鈴、山口崇、林隆三、中野良子、緒形拳Click!、大原麗子、原田芳雄、栗田ひろみ、森光子、水野久美などが出演しており、以前の記事Click!にも書いたがNTV開局20周年記念作品だ。第14回は、昔日の生放送ドラマを再現したものらしく、森繁もそれが印象に残り、また山田五十鈴との掛け合いも面白かったせいで、シナリオを長く保存していたのかもしれない。
 お送りいただいた見本誌を拝見すると、早稲田大学の特集記事の次に早稲田(馬場下町)にある江戸刺繍工房の記事がつづき、その次に『さよなら・今日は』の記事が見開きで登場している。目立つ新企画のページで比較的大きな扱いなので、旧・NTV(現・日本テレビ)の関係者や映像コンテンツのプランナーの目にとまり、DVDあるいはBDで同作品が甦ってくれればいいのだが・・・。


 このドラマでは、下落合に建っていた大正期の吉良邸+アトリエが、新宿地域の再開発の波に押されて解体され、集合住宅化されようとする1970年代半ばの情景が描かれているけれど、あれから30年以上が経過した現在でも、下落合ではまったく同様のテーマを抱えている。タヌキの森Click!ケースに象徴的な、歴史的建造物や屋敷林を排除して計画された違法建築問題もそうだが、『さよなら・今日は』は現在でもそのまま通用するingテーマ、すなわち「家族と家」の主題と「街(地域)への愛着」の課題とを、両面からていねいに描いている作品といえるだろう。
 落合地域にお住いの方が一家で1セット、同ドラマのDVD/BDを購入するとすれば、おそらく1,000セットはかたいのではないだろうか。また、ロケで撮影された1970年代半ばの下落合風景は記録的な側面からも貴重だし、下落合に興味をお持ちの方、あるいは出演している俳優たちのファンまで含めると、発売すれば採算はすぐにも取れそうな気がするのだ。でも、出演者や脚本家たちがあまりに豪華すぎたのが祟り、著作権料の関係からやはり販売は困難な状況なのだろうか?
 
 お送りいただいた、『[今昔]牛込柳町界隈』のバックナンバーを拝見すると、牛込地域に展開するあちこちの物語が紹介されており、わたしの落合サイトと同じようなテーマや志向、あるいは視点の記事が並んでいて、読み飽きずにとても面白い。すぐお隣り(このくくりでいうと落合は淀橋地域)の牛込地域で発行されているタウン誌なので、これからも同誌のコンテンツには注目していきたい。

◆写真上:演劇に関するあらゆる時代の資料が収蔵された、早大の演劇博物館。
◆写真中上:上左は、『さよなら・今日は』を取り上げてくださった『[今昔]牛込柳町界隈』Vol.6の最新号。上右は、1972年(昭和47)に向田邦子脚本の『新・だいこんの花』(NET)に出演の森繁久彌(右)と大原麗子(左)で、ともにこのあと『さよなら・今日は』へ出演することになる。下は、『[今昔]牛込柳町界隈』Vil.6の早稲田大学大隈講堂の特集記事。
◆写真中下:同誌最新号の、『さよなら・今日は』をめぐる演博収蔵シナリオの記事。
◆写真下:左は、同誌Vol.3で特集は牛込報国寺と移築された田安家の屋敷門。右は、同誌Vol.5で特集は市ヶ谷台地の陸軍士官学校大講堂(現・市ヶ谷記念館)。
★同作品が、何十年ぶりかで情報誌に取り上げられたので、早期DVD/BD化を願って久しぶりに同作品の第4回「予告編」を掲載したい。1973年10月27日に放映された第4回には、吉良邸のベランダで話す夏子(浅丘ルリ子)と良平(林隆三)のシーンが登場するが、ベランダの向こうに拡がる下落合風景は、セリフにも挿入されているとおり1970年代の汚れた空の下、落合第四小学校の校庭南端から見おろす富士短期大学(当時)の時計台と西武新宿線、そして新宿高層ビル(4本)だ。
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