「せっかくマジな書きこみをしはじめたと思ったら、すぐこれかい!」…と、知人の呆れる声が聞こえてきそうなのだが、好きなんだからしかたがない。いま、いちばん頻繁に聴いているアルバムの1枚、クレージー・ケン・バンド(CKB)Click!の作品だ。JAZZ好きにもロック好きにも、ボサノヴァ好きにも、はたまた昭和歌謡好きにもたまらないアルバムではないだろうか? 懐かしのマンボだってブルースだって、ラップにツイスト、70年代フュージョンだってあるんだから…。
 「昭和79年」の「歌謡ロック」なんて言われているけれど、単なるアナクロニズムなんかじゃないところがいい。強いてカテゴライズの言葉を見つけるとすれば、「汎アジア歌謡ロック&JAZZ」というところか。友人が、的確なキャッチフレーズを教えてくれた。いわく「夜のサザン・オールスターズ」、言いえて妙とはこのこと。とにかく、手放しで“かっこいい”のだ。
 小学生のころ渚の市営プールで泳いでいると、流れてくる黛ジュンやザ・ピーナッツを聴きながら育った世代、シーサイドハウスや松林から響くエレキバンドの音を耳にすると、「不良には近づくんじゃありません」などと親に言われた世代にはたまらないサウンドが、CKBのどのアルバムにも宝箱のように詰まっている。CKBの活動の中心は、常に横浜にある。だから、“山手”といえば横浜の元町に隣接したフェリスの丘の山手町(ないしは野毛の高台か?)のことだし、“湘南”といえば葉山や逗子・鎌倉のこと。各地元の人間が聞いたら、「二度と言うな、ここは昔から湘南なんかじゃねえ!」と怒られそうな、湘南地方の規定さえ曖昧な浜っ子の視点なのだ。
 その昔、NHKの龍村仁さんが撮った『キャロル』というドキュメンタリーがあった。もちろん、NHKの編成局では放送禁止になり、ATG系の配給ルートで中小の映画館で公開されたかしていた。映画の中に漂っていたのは、どこか胡散臭くてインチキの匂いがして、いい加減そうなのだが無条件でかっこいい野郎ども。キャロルに憧れたCKBにも、そこはか共通する匂いを感じるのだが、2002年まで本牧で沖仲仕をしながら活動していたCKBのほうは、粗野な感触がほとんどなくキャロルよりもはるかにナイーヴかつ繊細だ。
 …さて、『肉体関係』(B000091KWH)。このアルバムの白眉は、「かっこいいプーガール」から「葉山ツイスト」「大人のおもちゃ」「長者町ブルース」「あるレーサーの死」へと駆け抜ける一連の曲で、一度聴いたら耳について離れない。また繰り返し、何度も聴きたくなる麻薬サウンドだ。シーサイドハウスへサーフボードを預けられる“すかした”裕福な連中を、「♪慶應ボーイのインパラなんかにゃ負けやしないぜ~」と唄う彼らだけれど、屋根に板をロープでくくりつけて走るいすゞペレット1600GTの浜っ子だって充分すかしてるぜ…と、物心つくころからディープ湘南で育ったわたしには、ねたみも交えた複雑な感情もどこかにあるのだけれど…。このアルバムのほかに、「香港グランプリ」や「実演!夜のヴィヴラート」などが収録された『CKBB(ベスト盤)』(B000185DI0)も、“夜の真夜中”に聴くにはお奨めの1枚。