どう見ても膝枕・・・なのである。商品名も『ひざまくら』で、ショルダーには「疲れているあなたに」とある。こんなものに目がいくところをみると、わたしはかなり疲れているのだろうか? すごいキャッチコピーが付属している。「現代社会に疲れたあなたの心を癒す優しいふともも/滑らかな素肌感と心地よい弾力が魅惑のくつろぎを演出」・・・だって。
 以前の「がいこつ」君もすごかったけれど、これも同じぐらいスゴイぞ。なにしろ、前回は骨だけだったのが、今度はちゃんと肉までついてるもんね。(でも、上半身がないけれど) しかも、超ミニスカートのバリエーションだって、好みによって赤と黒から選べるんだから。ボディコピーにいたるや、もう完全に妄想の世界へ行っちゃってるぞ。「現代女性の美しさそのままの悩ましくも暖かい膝枕です。まずは思わず頬ずりしたくなる魅惑のふとももに頭を預けてみてください。その滑らかな素肌の感覚と、シッカリと頭を支えてくれているむっちりとした弾力は、いつまでも寝そべっていたくなる心地よさ」・・・と、もう名コピーだ。河竹新七の語呂だって、こう滑らかには繰り出せまい。
 また、ボディのおとしどころがうまいのだ。「(現代の男は)何かに寄りかかりたくなるのは人情というものでしょう」・・・と、泣きのくすぐりをうまく効かせつつ、「自分のために膝を揃えて待っていてくれる幸せは、男にしか分からない安らぎのひとときを提供してくれるはず」と締めくくる。ああ、オレもなかなか言うことをきいてくれない誰かさんじゃなくて、膝を揃えて大人しく待っていてくれるこういうの、ひとつ欲しいなぁ・・・と、読者をその気にさせる講釈師のような名調子なのだ。おもわず、「うまい!」と言ってしまった。
 誰とは言わないけれど、「文学」をやってしまうと「なんてつまらないんだ」と感じる小説家が、ポルノを書かせたとたんになんて素晴らしい文章力なんだ・・・と、うなってしまう例がある。重信や英山、春湖、栄里のように、美人画や役者絵を描いてもイマイチの腕しかない浮世絵師が、枕絵や春画を描かせたとたん、まるで別人のように活きいきとした筆さばきになり、一流と肩を並べた例だってある。このコピーにも、なんとなくそんな気配を感じるのだ。普段はクライアントの言いなりになって、窮屈な文章を書き散らしているコピーライターが、ここぞとばかりに解放されて、想いどおりに本領を発揮した・・・という感じ。
 それにしても、気になるのは寝心地なのだけれど、顔はどちらに向けて寝ればいいのだろう。・・・やっぱり、わたし、少し疲れてるんだろうか?

■カラー:レッド/ブラック(スカートの色はお好みに応じてお選びください)、サイズ:280(W)×590(D)×300(H)mm、材質:発泡ウレタン・ポリエステル、重さ:1.7kg、¥9,429