「♪みどりの丘の赤い屋根~とんがり帽子の時計台~鐘が鳴りますキンコンカン~」・・・と、なぜかわたしはこの歌が好きで、ときどき口ずさんだりするのだが(当然、生まれてません!)、とんがり屋根の教会は、緑濃い森の中に建っている・・・というイメージがとても強い。親が、のちのちまで口ずさんでいた、戦災孤児を歌ったこの曲の影響が大きいのだろうか?
 そういえば、オスガキどもがお世話になった、下落合みどり幼稚園のとんがり帽子の下落合教会Click!も、丘の上で緑に囲まれていた。わたしが子供のころ過ごした大好きな大磯の駅前に、澤田(岩崎)美喜が運営されていた戦争孤児のエリザベス・サンダース・ホームClick!(旧・岩崎弥太郎別邸)があるけれど、緑の丘の上にやはり赤い尖塔が見えていた。だから、「森の中の教会」というイメージが、あらかじめ強く頭の中にインプットされていたのかもしれない。写真左の姿が、まさに「森の教会」のイメージそのままだ。ひっそりとした雰囲気の中で、ときに鐘の音や、上品な賛美歌が聞こえたりもするのだろう。
 ところが、そんな教会のイメージをガラッと一変さてくれたのが、市川森一の『ダウンタウン物語』だった。冴えない川谷拓三が牧師をつとめる教会、これがとんでもない立地にあるのだ。周囲はヤクザやゴロツキ、殺し屋、酔っ払い、ホームレス、娼婦、ヤク中にいかがわしいギャンブラーだらけという、横浜のとある下町が舞台。(CKBが歌う、昔日のあの町かな?) 下落合や目白などとは異なり、教会なんかに誰もやってくるはずがなく、ときどき顔を見せるのは食べ物をねだりにくる、飢えたホームレスだけという悲惨な状況。布教なんて思いもよらず、牧師は次々と事件に巻きこまれ、周囲の環境に染まり翻弄されていく・・・というようなストーリーだった。当然、上の教会からはたびたび呼び出され、信者獲得の推進を督促されて、「堕落」牧師はいつもこってり油をしぼられる。
 

 これが、とても面白かったのだ。ドラマは、「ほんとうに教会を必要とする人たちは、どこにいるのか?」という、けっこう重たいテーマの“陰画”だったように思うのだが、全編コミカルに描かれていて、川谷牧師とクラブJAZZシンガーの桃井かおりとの迷コンビが、なんともいえない味を出していた。アルバイトそっちのけで、毎回楽しみに観ていた記憶がある。バンドが始まればケンカも始まる・・・と、猥雑で国籍不明のいかがわしい町中にある、誰もやってこないし子供たちの声も聞こえない、だから賛美歌も響かないし鐘も鳴らない、森の中とは正反対のうらびれた町中教会の静寂。
 先日、街を散歩していたら、ほんの700mぐらいの距離をあけて、緑濃い「丘上の森の教会」といかにも町場らしい「商店街の教会」を見つけた。商店街の教会は、ほんとうに店々が建ちならぶまんまん中にあって、なぜかショーウィンドウさえ備えている。「なんの店かな?」と、一瞬立ちどまって眺めてしまったほどだ。それほど、商店街に溶け込んだ存在だった。一方、丘上の森の教会は、いかにもここに教会があります、わたしは教会なんです・・・と、絵に描いたような自己主張をしている。さて、みなさんはどちらの教会を“お好み”だろうか?

■写真下:『ダウンタウン物語』(市川森一/1981年)。出演者はほかに、岡田茉莉子、市原悦子、夏目雅子、小夜福子、原知佐子、南風洋子、田村亮、小林稔侍、平田昭彦(牧師が似合う)、篠田三郎(牧師がさらに似合う)・他。