夏休みには、高校生に戻ろう
 『リンダ リンダ リンダ』(山下敦弘監督/2005年/日本)

  いや、もうビックリ。期待せずに見ただけに、感動するというより、まずは驚いた。
 デビュー作『どんてん生活』のダメヤンキーにしろ、『ばかのハコ船』のバカップルにしろ、『リアリズムの宿』のダメ男×2でさえ、それなりに興味はあったが、今回はR指定ナシ。もちろんそれが理由じゃないが、こんどの舞台は高校の文化祭である。軽音楽部の女の子バンドがブルーハーツをカバー、しかもヴォーカルは韓国からの留学生って、あらまあ韓流ブームに便乗? って感じで、見る前はかなり引いていた。
 しかし、そこは一度見たらクセになる山下ワールド。でたらめでだらしない男の世界と違って、根はまじめな女の子たちも、うーん、もしかしたらかなりダメかも? な部分にどんどん惹かれていく。“美人”が売りではない韓国の女優ペ・ドゥナの起用も大当たりだ。

 「ソンちゃん、バンドやる?」「ハイ!」、「ヴォーカルでいい?」「ハイ!」って、えらく調子いい留学生だなと思ったら、意味もわからず適当に返事していたという。でも、やると決めたらカラオケに行って練習する。その歌、サイコー。こういう描写が山下(とデビュー以来組んでいる脚本の向井康介、今回もいい味を出している山本剛史ら)ならではのセンスなのだが、本作はいつものコントのような見せ場は極力抑えて、物語が展開する“間”で見せている。きっとこうなるんだろうなと予測がついて、だいたいそのとおりに話が進むのに、心地よい。つまりメジャーな演出なのだ。それでいて、いつもの笑いのツボは外していない。熱狂的なファンに支持されてきたインディーズ出身の作り手が、大きな予算で撮ると失敗しやすい落とし穴をみごとに切り抜けた。その点にまずは驚いたわけだが、映画館を出るときには、「終わらない歌をうたおー」なんて口ずさんでいたから、やはりノセられてしまっていた。
 山下の描く男の世界は、はっきり言って小さい。そして、その住人は胸に静かな闘志、ではなく、ほとんど自分勝手な怒りを秘め、でたらめに生きている。つまりワガママで、ぜーんぜん男らしくない。これがなぜ愛すべきキャラなのかといえば、永遠に思春期のような感性をいつまでも持ち続けているからだ。自らの分身でもある登場人物は金もないし、運もない、そのくせ妙な余裕がある。どこかとぼけた独特のユーモアの出どころを彼らが自覚しているかどうかはわからないが、これこそが世代というもの。バブル期に子どもだった彼らは、大人になる過程であらかじめ「諦観思想」を身に着けてきたのではないだろうか。

 本物は、頭で考えた理想ではなく実感からしか生まれない。この映画でも、高校の文化祭という小さな世界で、ソンちゃんは顧問らしき先生とふたり、日韓交流の教室作りをしている。でもソンちゃんにとって、本当の日韓交流は、壁に貼られた年表ではなく、みんなと一緒にバンドをやることだ。
 そして自分たちの分身でもある男モノは、照れてしまって必要以上にだらしなくしか描けないチーム山下がパーランマウム(彼女たちのバンド名=青い心という意味)を最後までがんばらせることができたのは、今回はじめて参加した女性の脚本家、宮下和雅子の影響もあるだろう。ともあれ夏休みは、連日の暑苦しさをふっとばし、気持ちをほんのりさせてくれる映画を見に、映画館に行こう。                                                                                                                                負け犬

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●8月6日(土)~ 新宿K’s cinema/シネセゾン渋谷(公開中)