オスガキに「チョコレートあげる」といわれ、たかがチョコだと思い、つい釣られて口にしてしまった。でも、幸いだったのは、丸ごとひと口で食わなかったことだ。半分かじって様子をみてみた。なぜかって、わたしはこのテで、過去に何度かオスガキどもの罠にはまり、きっとひどい目にあっているからだ。「大好きなチョコをオレに食わせるなんて、なにか裏があるに違いない。まんまとハメられてたまるもんか。でも、今度はどんな罠なんだ?」・・・と、小さなチョコレートだから興味半分、タカをくくってつい口に入れてしまった。
 口溶けを楽しむなんて、そんな高級なチョコではなく、噛まないと味がしないので、つい噛んでしまったのが運のつき。・・・ひどく、辛いのだ。・・・なんとも、辛いのだ。・・・もうどうしようもなく、辛いのだ。ヒリヒリ辛いチョコレートなんて前代未聞なので、早々に種明かしを要求したら、出してきたのが写真のパッケージ。なんと、「Redpepper Chocolate」などと書かれている。誰が、こんなふざけたもんを作ったんだ?
 わたしは、辛いものが苦手だ。地域によって表現が違うかもしれないので、ちなみにわたしの地方では、「辛い」=「しょっぱい」ではない。わさびやからしは「辛い」だが、塩がききすぎた食いもんは「しょっぱい」だ。わたしは、「しょっぱい」のは得意というわけじゃないけれど、濃い塩鮭などはそれなりに好きだったりする。味覚を麻痺させるような、唐辛子をふんだんに用いたキムチ料理が、だからあまり得意ではない。辛くない韓国料理だったら、大好きなのだが・・・。わたしの辛さの許容範囲は、せいぜい薬研(やげん=七色唐辛子)かカレーの中辛ぐらいまでで、それ以上になるともはや料理の「風味」ではなくて、単純な辛「味」のみしか感じなくなってしまう。おそらく、舌の味蕾が感知の限度を超えて麻痺してしまうせいだろう。「からい」と「つらい」は、同じ漢字を用いて「辛い」と表現するが、せっかくの素材の風味が死んで台なしになり、つらい単純な辛味のみが舌の上で尖んがるように感じてしまう。
 くだんの「Redpepper Chocolate」は、つい耐えきれず「ツー」(口の中から吐き出すこと)してしまったけれど、市場ニーズを吸いあげて商品化されてるのだろうから、これを美味(うま)いと感じる人もいるのだろう。美味の味覚や料理文化は、民族や風土、地方、習慣などによって多種多様で多彩、実にさまざま、バラエティーに富んでいる。だから、底知れず奥が深くて楽しいのだが、唐辛子チョコレートだけは、・・・やっぱり許せない。