このところ、「カフェ杏奴」Click!に滞在をしはじめた「サエキくん」Click!に、プレゼントがあいついでいる。Tシャツのまま、下落合をスケッチしてまわっては寒いじゃないの、風邪を引いちゃうわよ・・・ということで、毛糸のマフラーを編んでくださった方がいらっしゃる。ちゃんと高級毛糸でていねいに作られた、オリジナルの手編みマフラーだ。さっそく首に巻いてもらって、サエキくんはとても喜んでいる様子。このぶんでいくと、そのうち赤いエプロンでもして、右手に錫杖でも持たせられかねないサエキくんなのだ。下落合では、いまだにサエキくん人気はとっても高いらしく、80年ぶりの下落合スケッチ散歩ということで、近隣の方たちがいろいろと気を遣って面倒みてくれているらしい。
 それから、画家には欠かせないイーゼルも、ちゃんとママさんからプレゼントされていた。イーゼルには、さっそく新『下落合風景』の1作目がすでに完成して載せられている。さすが、制作スピードClick!がやたら速いのだ。サエキくんにサブタイトルを訊いたら、「カフェ・レストラン杏奴」というのだそうだ。でも、いつかどこかで見たような作品。1928年(昭和3)の第2次渡仏時に描かれた、「カフェ・レストラン」にとてもよく似ている。でも、作品をよく観察すると、絵柄がぜんぜん違うのだ。
 
 カウンターの向こうにいるのは、パリの「カフェ・レストラン」のヒゲ面マスターなどではなくて、なんと「カフェ杏奴」のママさんなのだ。ママさんの要望もちゃんと入れられて、目鼻もクッキリ描かれていた。描かれた店内の様子も、まったく違っている。左手にはガラス張りのドアがあり、カウンターが右手へ、すなわちお店の奥へとつづいている。カウンターの上には、紅茶の缶やカップが並べられた作りつけの棚があるところも、まさに「カフェ杏奴」ならではの光景だ。テーブルに着いたお客さんの表情も違えば、食べているのもどうやらカレーライスのように見える。店内のインテリアはパリのカフェ・レストランではなく、まったく「カフェ杏奴」そのものなのだ。
 でも、80年ぶりの作品であるにもかかわらず、絵の表現やタッチが当時と少しも変わっていないのが、変化をしつづけたサエキくんらしからぬところ。80年もたった『下落合風景』なのだから、もう少し違う表現かと思った・・・と、わたしはさっそく突っこんでみたところ、サエキくんはすかさず「あのな~、なに言うてまんのや。わしの下落合風景に、こないなタッチで描いた作品は1枚もあらへんで。そやから、新しい下落合風景とちゃうのんか? そやろ?」と、あっさりかわされてしまった。
 
 
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 あのな~、そない80年前のこと、根ほり葉ほりぎょうさん訊かんといてや。わし、それでのうても疲れとんのやさかいなあ。・・・そやけど、ママさんが暮れに風邪ひきなはってな、お店めずらしく3日間も閉めはったんやで。ほんでな、少しやけど風邪薬分けてもろうて飲んだらなあ、肺のほうがえろう楽やねん。なんや、抗生物質ゆうのんか? よう効きよるで。昭和の初めにはやなあ、こないなもんなかったんや。おかげさんでな、身体のほうはえろう調子がええのんや。肺のほうは、もうほとんど治ったみたいやで。これからは、仕事に精出せるちゅうもんやなあ。
 あのな~、それにしてもや、このマフラーぬくいなあ。どこぞのきれいなビーナスはんが、編んでくらはったんやろなあ? 「杏奴」に逢いにきてくれへんかいなあ。・・・あっ、シーーッ、ヨネコはんには内緒やで。マフラーのビーナスはんには、くれぐれもようけお礼をゆうたってな。あんじょう頼んます。わし、こんなん好っきやねん。

■写真上:手編みマフラーにご満悦のサエキくん。『下落合風景』Click!が描かれた地元・下落合では、相変わらず人気が高く愛されつづけているサエキくんなのだ。
■写真中:左は、第2次渡仏時に描かれた佐伯祐三『カフェ・レストラン』(1928年・昭和3)。右は、サエキくんによる新『下落合風景』の1作目「カフェ・レストラン杏奴」(2006年・平成18/爆!)。
■写真下:「カフェ・レストラン杏奴」の店内。よく観ると、パリのカフェ店内とはまるで異なっている。