おそらく、没後100年展(2028年)まで待ったとしても(生きてないか/汗)、現在の「下落合風景」シリーズClick!の一般的な位置づけや評価からすると、佐伯祐三の『下落合風景画集』は出そうもない。だから、わたしは待ちきれずに自分で作ってしまった。ボリュームは40ページ、「下落合風景」作品の全45点(新発見の写真画像3点含む)、およびその周辺と思われる風景2点の、合わせて全47作品を網羅している。
 デザイナーでもないわたしが、版下データを作るのはけっこう面倒だったけれど、毎日コツコツと1ページずつ、こまめにまとめるのは楽しい作業だった。作品画像の横には、描画ポイントの現在の様子を撮影した風景写真を対照的に掲載し、1926年(大正15)当時にふられていた下落合の旧番地をそれぞれ併記している。
 


 もちろん、この本は私家版で、この世にたった数冊しか存在しない画集だ。出力センターへ版下データを入稿し、印刷と製本をお願いしてから1週間ほどででき上がってきた。表紙には、佐伯がアトリエ近くの第三文化村内から、菊の湯の煙突が見える北北西方向を描いた、青空がめずらしい作品Click!を採用。中扉には、おそらく下落合を写生してまわっていた姿に近いと思われる、新婚旅行先の箱根で写生する記念写真を載せた。本文は、すべて厚手の上質コート紙をつかった、とても贅沢な仕様となっている。
 描画ポイントを描き入れた1926年(大正15)当時の「下落合事情明細図」や、佐伯が描いていた下落合の面影が色濃く残る1936年(昭和11)の空中写真も掲載し、なにか解説文なども添えたかったのだけれど、慣れないDTP作業の根気がつづかなかった。ページ数を増やし、また次の機会に挑戦してみよう。でも、全ページフルカラーで函入り、きわめて小ロットの印刷だと、本というのはなんと高くついてしまうのだろう。



 「ふふふっ、わたしだけの『下落合風景画集』だ、楽しいなぁ」・・・などと、刷了納品された夜は眺めながら満足して眠ったのだけれど、翌日になってある方からメールをいただいた。「たぶん、下落合の風景だと思うんですけれど、こんな作品ありました」と、わたしの知らない佐伯の風景作品をお送りいただいた。先日、「かしの木のある家」の記事Click!で、まだ未収録の「下落合風景」があればソッとお知らせください・・・と呼びかけたのに、お応えいただいたものだ。一度どこかの画集に掲載されたようで、制作年代や作品の風情からすると、娘の彌智子が産まれる前後のころの「下落合風景」にまず間違いない。この作品は、また改めて描画ポイントも含め、こちらで紹介したいと考えている。
 『下落合風景画集』は、わずか1日で第2版の刊行が必須となってしまった。(爆!) 新たにお送りいただいた作品に限らず、まだまだ佐伯の描いた下落合の風景画が、人知れずどこかに眠っていそうな気がするのだ。

■写真:『下落合風景画集~下落合を歩く佐伯祐三~』(2007年6月/第1版)より。