今年の正月に、ゴッホの描画ポイントに作品プレートが建てられている、フランスのオーヴェル・シュル・オワーズの様子をご紹介Click!した。また、ゴッホの描画ポイントを細かくたどった佐伯祐三が、「オーヴェルの教会」や「村役場」、「跳ね橋」(アルル)など、ゴッホとまったく同じ場所にイーゼルを据えて作品を仕上げていることも書いた。
 佐伯の「下落合風景」シリーズClick!を活用して、オーヴェル・シュル・オワーズと同じようなことができたら、おそらく下落合は日本初の“近代美術ファンの街”となるだろう。同様に、ほぼ同時代に「下落合風景」を描いた数多くの画家たちも含めて回遊/散策コースを設定したら、都心という立地条件から考えても、鄙びたオーヴェル・シュル・オワーズの比ではないかもしれない。いや、この切り口を「文学」でも「近代建築作品」でも、はたまた「江戸友禅染め」でも当てはめてみれば、落合地区は日本じゅうの芸術/美術愛好者たちから注目を浴び、人々が「訪れたい/歩きたい/集まりたい/暮らしたい」街に変貌する可能性を秘めている。
 ゴッホの足跡とオーヴェル・シュル・オワーズを調べていたら、格好の映像資料を見つけた。ゴッホの描画ポイントを次々と歩き、そこに設置された「作品プレート」をはじめ、ゴッホの描画ポイントに埋められた「イーゼルタイル」や、歩いたコースを示す「モチーフ散策タイル」などの様子を詳しく紹介している。この番組、今年(2007年)の1月1日にBS日テレで再放映されたらしいのだけれど、うちはBSデジタルチューナーがないので観られなかった。DVD『山口智子 ゴッホへの旅~私は、日本人の眼を持ちたい~』(BS日テレ・テレビマンユニオン制作/2006年)が、それだ。
  
  
 アルル、サンレミ、オーヴェルなどゴッホゆかりの地が次々と紹介されるのだけれど、やはり描画ポイントに立ったときの、作品と現状との対比が面白い。ゴッホが歩いた、当時の面影そのままの場所が多いのに驚く。特に、作品プレートを建てて景観を大切にしている、アルルやオーヴェル・シュル・オワーズの変わらない様子には驚いた。佐伯祐三が描いたパリやフランス各地もそうなのだが、ちゃんと街の風情を壊さずに残しているところが、やはりすごい。景観を根こそぎ台無しClick!にする、どこかの国の街角とは大違いなのだ。
 さて、わが下落合(中落合/中井2丁目含む)はというと、佐伯の描画ポイントに立っても、はっきりそれらしい風情を感じられるのは、もはや数点にしかすぎなくなってしまった。二度にわたる空襲を受けているとはいえ、下町に比べたら当時の景観が色濃く残っていたはずなのだが・・・。それでも、都内のほかの町に比べれば、まだこの街独特の風情や匂いが強く感じられることは間違いない。

 いまからでも、決して遅くはないと思う。関東大震災Click!と東京大空襲Click!、そしてトドメの東京オリンピックClick!で人々が離散し、なにもない「名所」だらけになってしまった(御城)下町Click!を、わたしとしては口惜しいのだけれど、この際“反面教師”にしよう。下落合が、なにもない「名所」化しないうちに、はっきりとした街全体のコンセプトを打ち出せば、まだなんとか間に合うはずだ。

■写真上:左は、右に傾くゴッホ『七月十四日の村役場』(1890年)。右は、左に傾く1925年(大正14)に描かれた佐伯祐三のオーヴェル・シュル・オワーズ『村役場』。
■写真中:ゴッホの描画ポイントに設置された、作品プレートやゴッホの散策コースタイル。
■写真下:DVD『山口智子 ゴッホへの旅~私は、日本人の眼を持ちたい~』(BS日テレ・テレビマンユニオン制作/2006年)。ゴッホと、安藤広重の「名所江戸百景」との関わりも面白い。