下落合の風情が、やたら気になるきっかけとなったドラマに、1973~74年にNTVで放映された『さよなら・今日は』Click!がある。その関連記事Click!を含め、寄せられた『さよなら・今日は』に関するコメントが、合わせて130コメントをゆうに超えているのに改めて驚いてしまった。下落合を舞台にしたこの作品を、みなさんが非常に印象深く憶えていらしたのだ。CSでの再放送をめざして、いま、たくさんの方々がアプローチしてくださっている。
 高校生のころに、この作品を録音したカセットテープがどこかにしまってあったので、ゴソゴソ探しまわって引っぱり出してきた。もちろん初回放送のときではなく、1976年前後に再放送されたときに改めて全話を録音したものだ。わたしがドラマを録音したのは、これが最初で最後だったので、それほど当時は強い印象を受けたのだろう。ビデオがいまだ、家庭に普及していなかった時代のお話。当時の新書サイズほどもあったウォークマンを、TVに接続して録音していたのを憶えている。
 いま、改めて全26話を聴きなおしてみると、ドラマのストーリーよりも背景から聞こえてくる、下落合に響いていたサウンドが気になる。当時の西武新宿線の警笛や走行音だったり、踏み切りの警報機の音、落合第四小学校のチャイム、十三間通りを走る救急車のサイレン、商店街の年末福引セールの放送、宣伝カーのアナウンス、樹木をわたる小鳥のさえずり(ドラマの季節設定からヒヨドリが多い)、ゴーッと通奏低音のように響く新宿一帯のノイズ、公園で遊ぶ子供たちの歓声、建築工事や道路工事の音・・・などなど、1970年代の下落合で採集された環境サウンドが横溢していて、当時の情景がわたしの脳裡にまざまざと甦ってくる。
  
 テープケースには、高校生のわたしのヘタな字でメモが残っていた。それを見ていて気づいたのは、このドラマには当初サブタイトルが存在せず、途中の第6回目から付けられるようになったらしいことだ。この際だから、そのデータを列挙しておきたい。

 下落合をロケ地にしたドラマの記事に、これだけのアクセス(最初の記事は8,000アクセスを超えている)やコメントが寄せられるということは、なんとなく2匹めのドジョウを狙いたくもなってくる。下落合はドラマやCMでもよく使われる界隈なので、おそらくネタには困らないだろう。わたしが知っている限り、この10年の間には1998年に放送された御留山直近の『眠れる森』(木村拓哉/中山美穂)と、2000年の旧・学習院昭和寮へロケした『やまとなでしこ』(松嶋菜々子/堤真一)というドラマが撮影されているけれど、わたしは残念ながら両作品ともまともに観ていない。当時は小中学生だった、オスガキたちの見学話を聞いているだけだ。
 
 『さよなら・今日は』から30年余、下落合はずいぶん変わったところもあれば、まったく変わらないところもある。家々や緑地の風情はずいぶん変わったが、御留山では水量が減ったとはいえ、相変わらず泉が湧きつづけている。新宿で、おそらく唯一残った湧水源だろう。目白崖線から新宿方面を眺めれば、西口の高層ビルは激増しているけれど、手前を走る西武新宿線や神田川の風情、氷川明神社のたたずまいは変わらない。ドラマのタイトルバックに使われた、東京富士大学(当時は富士女子短期大学)の時計台Click!もそのまま健在だ。
 テープの音だけを聴いていると、この30年で下落合からなにが「さよなら」して、なにが「今日は」したのかを、危うく忘れてしまいそうな錯覚におちいる。・・・さて、いまの下落合のサウンドを聴きに出かけよう。きょうは、下落合のどの坂道を歩こうか?

■写真上:左は、下落合2丁目にある現在の高田馬場住宅から丘上の日立目白クラブ(旧・学習院昭和寮)を眺めたところ。右は、ドラマのタイトルバックのひとつにも使われた1974年の同住宅。
■写真中:高校時代に再放送を録音した、『さよなら・今日は』のカセットテープ。日付メモは、初回放送のタイムスタンプ。左から第1回、第13回「女同士」、第26回(最終回)「別れも楽し」。
■写真下:左は、御留山の森を背景に相馬坂で撮られた『さよなら・今日は』の広報スチール。右から、緑役の中野良子、夏子役の浅丘ルリ子、愛子役の栗田ひろみ。ドラマでは、吉良家の家族は目白駅ではなく、高田馬場駅を利用する設定だった。右は、柵がやや低くなった撮影場所の現状。
●『さよなら・今日は』予告編
 落合第四小学校沿いの相馬坂を下る3姉妹の会話、おとめ山公園の小鳥のさえずり、西武新宿線が山手線ガードをくぐって加速する走行音、クルマのクラクション、十三間通り(新目白通り)の道路工事の音・・・、1973~74年にかけ下落合で繰り広げられた物語は、すべてここからはじまりました。
Track01.mp3 (Part1)
Track02.mp3 (Part2)
Track03.mp3 (Part3)
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Track06.mp3 (Part6)
Track07.mp3 (Part7)
Track08.mp3 (Part8)