9月21日(水)の午後5時すぎ、うちの裏にそびえていた樹齢数百年の大ケヤキClick!の主幹の1本が、おそらく風速30m/秒を超える台風15号の突風で、すさまじい轟音とともに折れて倒れた。家とは反対側に倒れたので、被害はまったくなかったのだけれど、それにしてもものすごい暴風だった。わたしの自宅側に倒れてきたら、安普請なので屋根がペシャンコになっていたかもしれない。下落合の大ケヤキが、落雷によって幹を裂かれ、危険なので結果的に切り倒された話は聞いたことがあるが、台風で薙ぎ倒された例はめずらしい。おとめ山公園Click!でも、樹木が根こそぎ倒されているようなので、並みの強風ではなかったことがわかる。
 倒れたケヤキを見ると、地上から6mほどのところで太い幹がポッキリと折れ、北西の方角に倒れている。倒れた先には電柱と電線があり、もしそれが切れていたなら一帯は停電していたかもしれない。大急ぎで、連れ合いが東京電力へ電話をしたようだが、ほかの地域からの被害コールに追われているのかまったくつながらず、あきらめていたところ隣家から新宿区のみどり土木部に電話して報告したとの連絡が入った。折れた大ケヤキは、新宿区の保護樹木に指定されているので、担当者が大急ぎで駈けつけたのだろう。でも、私有地のケヤキなので、電線が危ないからといって勝手に枝葉を伐ってしまうわけにもいかず、所有者との話し合いのうえで処理をするのだろう。
 
 おそらく、江戸期からずっと下落合で育ってきた樹なのでかわいそうな反面、その膨大な落ち葉から少しでも解放されたことで、どこかホッとしているわたしもいる。例年、落ち葉の蓄積による屋根や雨どいのメンテナンスコストが、多少家計に響いていた。毎年冬を迎えると、落ち葉が朽ちて土塵状になる前に、馴染みの屋根屋さんに清掃してもらっている。また、12月は腰痛の季節と呼ぶぐらい、落ち葉掃きの負荷が高かった。でも、どちらかといえば大樹が家と接しているメリットのほうが、負の要素よりもはるかに大きかったかもしれない。
 枝葉の代謝によるものだろうか、一帯の空気がすがすがしく新鮮で密度が濃く感じられるのと、夏は大きな木陰をつくってくれるので、北側の部屋はクーラーを点けなくてもかなり涼しく、また冬は箒を逆さまにしたような空へと拡がる大きな枝葉が、目白崖線を吹き抜ける北風を防いでくれるせいか暖かかったのだ。それらをトータルで判断すれば、毎年一度の膨大な落ち葉との格闘と、少なからぬ出費ぐらいは、いくらでも我慢できそうにも思えてくる。

 大ケヤキは、強風に煽られやすかったのだろう、大量の枝葉をつけた幹の側が折れて倒れたけれど、他の幹はそのまま傷つかずに残っている。また、ケヤキの大樹は家の真裏ばかりでなく、あと何本かが周囲に展開しているので、真裏の樹幹が1本折れたからといって、落ち葉の量が急に少なくなるとも思えない。また、真裏に繁っていたケヤキの幹が倒れたことで、落ち葉が飛ばされやすい空間ができ、結局、例年と変わらない量の枯れ葉が飛ばされてくる可能性もある。あってもなくても困る大樹なのだが、3階の屋根にとどくかとどかないぐらいの背丈のままでいてくれる、そんな人間に都合のよい樹木はなさそうだ。
 おそらく来年、落雷で倒れた諏訪谷Click!の大ケヤキClick!の切り株がそうであったように、折れた主幹のあたりからは、次々と黄緑色の新芽(新枝)が出てくるのだろう。それが、今度の台風で倒れたぐらいの背丈になるまでには、再び100年単位の時を刻まなければならない。わたしの子どもたちが歳をとったころ、折れた主幹側の先端はようやく3階の屋根を超えているだろうか?
 
 先年、同じく強風で根こそぎ倒れた、鶴岡八幡宮Click!の樹齢1,000年ともいわれていた大イチョウClick!もそうだが、自分が死んだあとまでそこに、ずっと変わらずありつづけるのだろうと思っていた樹影が、ある日突然なくなってしまう、あるいは変形してしまうのは、やはりショックで寂しい。

◆写真上:台風15号の暴風で、地上6mのあたりからポッキリ折れた大ケヤキの主幹。
◆写真中上:これだけ太い幹が折れて倒されるのだから、風速はゆうに30mを超えていただろう。
◆写真中下:倒れた幹は、隣接する別の大ケヤキにもたれかかった状態になっている。
◆写真下:左は、つい1か月前に3階から撮影した折れる前の大ケヤキ(右)。右は、2010年3月に強風で倒れた黄昏どきの鶴岡八幡の大イチョウで前年に撮影したもの。