「おーい、人くん、わ~しじゃ! 散歩かい?」
 「あれれ、金山センセ、大石田からおもどりでしたか?」
 「また、あんたとこの池で遊ぶんじゃ。タライClick!持ってくとこなんや」
 「あのー、金山センセ、池はもうとっくのとうに、昭和14年ごろ埋め立てちゃいましたよ」
 「・・・なっ、なんで、わしに断わりも相談もなく、勝手に埋めるんじゃ!」
 「だってだって、ボクのうちだもん!」
 「・・・そりゃ、まあ、そうじゃったな。・・・下落合の、ほかの池はどうなっとるんや?」
 「目白文化村の弁天池Click!もなくなったし、ソミヤ先生のいる諏訪谷の洗い場Click!もサエキさんの西ノ谷の洗い場Click!も、中村センセの林泉園Click!の池もないし、みーんな住宅街の下ですね」
 「ほれ、あそこに、林フミコのプールClick!があったじゃろ?」
 「あー、金山センセ、あれも戦後ほどなく、埋められちゃいました」
 「人くん! わっ、わしは、一度でいいから、泳ぎたかったんじゃ!」
 「金山センセは、絶対に入れてくれませんよ」
 「な~ぜじゃ? ど~してじゃ?」
 「だって、フルチンClick!で泳いだりしたら、学習院通いの上品なタイちゃんの教育によろ・・・」
 「フミコばばあが、断わりもなく埋め立てたんかい!?」
 「お言葉ですが、林さんは金山センセより20歳も年下です」
 「年下だろうが同学年だろうが、気に食わんことを言ったりしたりするやつは、サイトー茂吉Click!だろうが林フミコだろうが帝展の情実審査員の奴らだろうが、じじいとばばあなんじゃ!」
 「池を埋めたのは、手塚さんですってば」
 「せっかく、タライを持ってきたのに、これじゃちっとも遊べんやないか」
 「下落合の東のほうには、おとめ山公園とか野鳥の森公園の中に、まだ池がありますな」
 「ふん、アビラ村Click!からは遠いな、村長になるはずだった満谷くんのアトリエClick!のほうじゃ」
 「金山センセ、それじゃご案内しますから、いっしょに行かれます?」
 「ふん、しかたないのう。・・・しかし、・・・三ノ坂も久しぶりじゃな」
 「こうなると、金山センセのアトリエが残っているのは、ほとんど奇跡に近い風景ですな」
 「ちゃんと、きれいに使(つこ)うてくれとるのが、えろう嬉しいやないか」
 「このまま、ずっとずーっと後世まで、残ってくれるといいんですがね」
 「・・・あん? ・・・人くんの、アトリエはどこじゃ?」
 「あのー、金山センセ、こちらを向いて、東を向いて歩きましょうよ」
 「・・・人くん! 池だけじゃなくて、アトリエも埋め立てたんか?」
 「そ、それがですね、ちょっといろいろありましてね・・・」
 「ふん、淀橋区は、なにをしとるんじゃ!」
 「新宿区なんですが、金山センセ、まあまあ、いろいろ事情があったんですってば」
 「じゃあ、人くん、キミはいま、どこで描いとるんや?」
 「あのー、月並みなんですが、満谷センセの近くのカフェ杏奴Click!で・・・」
 「なに、カフェ杏奴? あの、フォーブで長距離バッターのサエキClick!がおるとこか?」
 「おや、ご存じだったんですか。最近は、中村センセClick!やソミヤさんClick!も滞在されてますよ」
 「ふ~ん、画会の同人にしては、みんな画風や表現がバラバラでメチャクチャやないか」
 「画会じゃなくて、下落合の野球チームでも作れそうですがねえ」
 「よし、審判Click!ならわしがやってやる。さっそく、そこへ行こやないか!」
 
 「・・・あのー」
 「なんじゃ、人くん?」
 「杏奴には、ボクを含めて、もう画家が4人も滞在してまして、ママさんがなんというか・・・」
 「人くん、わしを仲間外れにするつもりかい!?」
 「いえいえ、金山センセ、決してそのような意味ではないのですが、そのー・・・」
 「なんじゃ、はっきり言うてみい!」
 「・・・あのー、決して、ママさんの前でフルチンとかには、ならないでくださいね」
 「なんじゃ、そんなことかいな。人くん、ぜったい大丈夫じゃ」
 「それから、ママさんが気に入ったからって、仕事の邪魔して通せんぼClick!とかもなしですよ」
 「わかっとるわい! わしももう歳じゃ。・・・そら、もうそこや。・・・杏奴が見えてきとる」
 「それに、あたりかまわず、すぐに踊りまくるのも、やめてくだ・・・」
 「人くん、くどいぞ! わしなら、もうとうから、年相応に落ち着いとる、大丈夫じゃ」
 「じゃあ、まあ、入りましょうか」
  (♪チリンチリン)  
 「わ~しじゃ、金山じゃ!・・・」
 (▼※×◇▽▲☆Д★◆(・・;) _旦~~・・・!!)
 「おう、あんたが、ママさんか。やっぱり、わしがきたから大歓迎やな!」
 「あのー、金山センセ、カウンターの前で通せんぼなさらないでください!・・・っていってますが」
 「ママさん、チロリアンダンス好きかい?」
 (☆×▲И◎◆△※(T_T)!)
 「やっぱり、わしの思った通りじゃ。今度、らくClick!と踊るパラパラダンスアニメじゃのうて、手縫いのチロリアンドレスをプレゼントするからな、期待して待ってなさい!」
 「あのー、店の中でだけは、踊らないでくださいね!・・・って、ママさんは頼んでるんですがね」
 (※▼◇◎×※×△★▽☆▲↑ш◆¶(+o+)(--〆)・・・!!)
 「そうそう、ママさん、わしはちいと、うな重にはうるさいんや。よろしゅうにな」
 「あのー、金山センセ、お願いですから、芸術院会員が、そこらの窓からオシッコClick!をまき散らさないでくださいね! それに、店の窓は開きませんし、ここはうなぎ屋でもありませんですのよ!・・・って、ママさんは悲壮な表情で念を押してるんですがね」
 「なにをいうとるんじゃ! サエキの野グソClick!や、劉生の雲虎Click!よりはマシじゃ!」
 「劉生ゆーな! 金山くん!」
 「ほう、ほかにも劉生ぎらいの中村くんに、ソミヤくんもおるやないか。下落合の東っかわばかり仲よう集まって、西側のわしらにひと声かけんちゅうのが、そもそもけしからんのじゃ!」
 
 「元気かい、大正5年の文展特選以来だな。田中館博士Click!で憶えてるよ。はっはっは」
 「久しぶりじゃ、カルピス中村くん! ところで、なんじゃ、中村屋のなんてったかいな、娘モデルのなにがしかにじゃ、たいそうなふられ方したんやて?」
 「だから、中村屋ゆーな!」
 「シーーーッ、ダメだよ、金山さん。ツネさんは、まだぜんぜん立ち直れちゃいないんだからさ」
 「ふん、ソミヤくんも、ヘンな男のお守りはたいへんやな」
 「最近は、いまのカルピスが大正時代と味がちがうてんで、よけいにご立腹なんだな」
 「・・・なんじゃな、みんな、ヘンな連中ばっかじゃ」
 「あのー、タライを持って杏奴にくる金山センセが、いちばんヘンだと思いますけど・・・」
 「人くん、黙らっしゃい!」
 「あのな~、わしな~、最近の下落合はキレイすぎるさかいな~、そこらでババしとないねん」
 「よお~、1番バッターClick!のサエキくんやないか、久しぶりじゃ!」
 「あのな~、金山センセな、去年、わしのアトリエで会(お)うてますやん」
 「人くんが、どうしっっても、わしを杏奴へ連れていきたいいうもんやから、こうしてきたんじゃ!」
 「ママさん、ボク、いってない。ぜーったい、いってないよ、いってない」
 「サエキくん、どや、いまもぎょうさん、ヒット打っとんのかい?」
 「それでんがな、金山センセ。わしの名前な~、野グソ検索でな~、ようヒットしますねんて」
 「そうか、サエキくんもかい。近ごろのわしなんか、オシッコやフルチンでヒットしとるそうじゃ」
 「そら~、えらいこっちゃ。ほんま、けったいな時代になりましてん」
 「もともと、身からでたサビとはいえ、実にけしからん! 困ったもんじゃ」
 「あのな~、吉薗資料よりな~、よっぽど深刻ですわ」
 「・・・あっ、そや! いま思いだした、パン屋の娘の名は、確か俊子じゃ」
 「だからだから、俊子ゆーな!!」
 「・・・さ~て、ここはひとつ、どや? みんなで花笠音頭でも踊って、気晴らしせんか!?」
 (И◎◆△☆▲↑ш◎◎▽§◇××(/_;)・・・!)
 「そうじゃ、ママさんにも教えてやらんとな。らくには内緒で、わしと踊るんじゃ!」
 「あ、あのな~、金山センセな~、ママさんはな~、ここは画家の下宿でも、東京美術学校でも、盆踊り会場でも、ダンスホールでも、ましてやアトリエでもトイレでもありません! どこか、別のところでしてきてくださいませんこと!?・・・ゆうたはりますがな」
 「・・・アトリエも誰かが住んどるし、江戸前Click!のうなぎ屋も近くにないし、・・・じゃ、じゃあ、いったいわしは、どこで暮らして、どこで踊ってオシッコすればいいんじゃ!?」
 「金山センセ、これがほんとの、タライまわしってやつですかー」
 「人くん、黙らっしゃい!」
 ・・・ということで、旧・下落合の西側(現・中井2丁目)=アビラ村(芸術村)Click!からカフェ杏奴Click!に、「金山センセ」と「人くん」がやってきた。^^;
 

 「金山センセ」は着流しの上にTシャツを着て、背中には『瓜二つ』Click!(1933年ごろ)と、胸には1925年(大正14)の春に下落合へアトリエを建てたときの転居通知がプリントされている。転居通知Click!は、相変わらず「東京府豊多摩郡落合町大字下落合字小上一〇八〇(アヴィラ二十四号)」となっていて、下落合2080番地の住所が1000番もまちがったままだ。「人くん」は背広の上にTシャツを着て、表には上屋敷(あがりやしき)の斎田捷三邸の庭先で描いた、『初秋の庭』Click!(1929年ごろ)の習作がプリントされている。
 5人そろった記念写真は、美術史の研究家がご覧になったら泣いて喜ぶ、信じられない面子ばかりがそろっているのだけれど、地元・下落合でもさまざまなエピソードを残している代表的な画家たちばかりだ。このままだと、杏奴が画家たちに占領されてしまうので、「中村センセ」と「ソミヤくん」とがとりあえず、今年予定されている中村彝アトリエClick!の保存・再生=「中村彝アトリエ記念館」Click!の様子を見に、杏奴から引き上げることになった。
 いつも下落合の画家人形を作っていただき、ほんとにありがとうございます。>作者様<(__)>

◆写真:下落合のアビラ村からカフェ杏奴へやってきた、大の仲よしの「金山センセ」と「人くん」。