先年の暮れ、家の周囲とベランダの落ち葉掃きをした際、昨年につづいて放射線量の測定Click!を行なった。すると、やはり想像していたとおり、ベランダや屋根、雨どいに落ちてきた落ち葉の放射線量は、福島第一原発事故の当年(2011年)とまったく同様、正常値をゆうに倍以上も超える計測結果を記録した。つまり、2011年の暮れに落ち葉除去と洗い流し掃除をし、その後も何度かそれを繰り返して、平常値に近い数値=0.11~0.12µSV/hに近づけたはずなのだが、それがわずか1年で0.30µSV/hに近い数値にもどり、もとの木阿弥になってしまったわけだ。
 やはり、落ち葉を取り除いた家の周囲の土面も、2011年と同様に計測Click!してみたのだが、こちらはさすがに事故年に比べて数値が下がっている。土の表面に堆積した放射線同位元素が、雨で流されるか地中に浸みこむか、風で吹き飛ばされたのだろう。でも、落ち葉が堆積したところは、相変わらず一昨年とほとんど同じ放射線量にもどっていた。すなわち、また最初から「除染」掃除をやらなければならない、事故当年の“ふりだし”状況にもどったことになる。特に、小さな子供のいる家では、念入りに家の周囲を大掃除したほうがいいのだろう。
 これには、ふたつの理由が考えられる。ひとつは、福島第一原発の事故はまったく収束してはおらず、原子炉の中がどうなっているかもわからず、また炉心がどこまで溶融して沈下しているのかもつかめない状況、つまり事故は収束するどころか現在進行中のまま、延々と放射性同位元素が周辺環境へ漏れつづけ、まき散らされているということだ。これらの放射性物質が北風に運ばれ、相変わらず東京地方へ降りそそいでいる可能性がある。原発周辺の汚染は、ひどくなりこそすれ決して止まってはいない。数年前までは想像だにしえなかった、放射性物質のたれ流し状況に、われわれが単に「馴れて」しまっているにすぎない。
 ふたつめの理由として考えられるのは、事故の直後から地表に堆積した放射性物質が雨などで地下深くに浸透し、それを樹木が吸い上げて枝葉に蓄積し、昨年暮れから落ち葉とともに再び降りそそいだ・・・という可能性だ。このケースだと、来年もまた同様の放射性物質を含んだ枯れ葉が降ってくるのはまちがいないだろう。いや、さらに「濃縮」化現象が進み、事故年や昨年よりも高い数値の、放射性物質を含んだ枯れ葉が降りそそぐかもしれない。

 冬に葉を落とした樹木は、その枯れて腐食した落ち葉を養分にして、再び枝葉を育てることになる。このリサイクルが、放射性物質の「濃縮」現象を促進し、年をへるとともに放射線の濃度が高くなる要因だ。チェルノブイリケースClick!では、事故後5年ほどは多くの動植物に含まれる放射線濃度が高まりつづけ、低くなることはまれだったという。
 福島第一原発の汚染地域で捕獲されたイノシシから、とんでもなく高い放射線濃度が検出されたのは、ついこの間のことだ。おそらく、山の汚染された木の実や葉、根などを食べ、川の水を飲みつづけたのだろう。また、雨水や湧水で洗い流された汚染土を含む水が河川に注ぎこみ、やがては海の生態系を猛烈に汚染して、食物連鎖の頂点にいる海の魚たちに高い「濃縮」現象がみられるのも、まちがいなくこの5年前後の間だ。福島に限らず、その周辺域や関東地方でも、動植物における高い放射性物質の「濃縮」汚染は、これからスタートする大きな課題だ。
 もっとも、「濃縮」による高い数値の汚染が確認されても、いまの政府やマスコミは「風評被害」のクレームを怖れて発表を控えるか、その事実を隠ぺいするのかもしれない。国民や消費者の放射線被害を防ぎ、安全性を第一に考慮しなければならない立場の人々が、原発の事故隠しの時代とまったく同様、相も変わらず汚染隠しをつづけるのだろうか?
 「除染」が終了したとされる地域の作業実態、そして放射線による汚染濃度が低減したと発表される地域の計測実態を知るにつけ、すでに途方もない楽観論と、「大本営」発表の焼き直しが透けて見えはじめている。インパール作戦の佐藤師団長(東北出身)ではないけれど、「馬鹿ノ四乗」的な事態はぜがひでも避けてほしいものだ。放射線に、適当なゴマカシはいっさい通用しない。
 
 こんなお粗末で不徹底な対策や施策をつづけていると、多くの人々に取り返しのつかない放射線障害を生み、ヒロシマ・ナガサキの被爆(曝)者の70年を、もう一度フクシマで繰り返すことになってしまうだろう。チェルノブイリ事故から数年後、日本の団体や医療機関は周辺域で被曝した人たちへの本格的な支援をスタートしたが、放射線に関するWHOの規定を厳密に遵守した当時のソ連政府のほうが、はるかに誠実でまともに見えてくるのは、心底情けないことだ。それでさえ、被曝者の間に膨大な放射線障害を生んでしまった、いや現在も生みつつあるのだが・・・。
 下落合の近くの公園では、昨年の暮れから今年の初めにかけ、ほぼ毎日のように落ち葉を片づける“掃除機”のモーター音が響いていた。毎朝8時ぐらいから作業がスタートするので、少しうるさく感じ苦情を入れたくなったのだが、ハタと気がついて考え直した。例年なら、数日にわたる集中的な掃除で終了していた作業のはずだが、事故後は晩秋から冬にかけてほぼ毎日のようにつづけられている。ひょっとすると、汚染された落ち葉の実態を知っている方が仕事をされているのではないか? 公園には近くの保育園や幼稚園、小学生たちが大勢遊びに立ち寄る。堆積した落ち葉の中を駈けまわったり、クッションのようになった枯れ葉の吹き溜まりへ寝転んだりする。それを気にして、しつこいまでの落ち葉掃除をつづけているのではないか。
 余談だけれど、1月14日の大雪を計測してみたが、少なくとも落合地域に降った雪には放射性物質がほとんど含まれておらず、ほぼ平常値に近い0.09~0.11μSv/hだった。風向きが真北だったせいで、雪を降らす雲へ汚染が拡がらなかったのだろう。積雪が放射性物質で汚染されると、とてもやっかいなのはチェルノブイリケースをみても明らかだ。
 
 暮れにベランダの落ち葉掃除を終えたあと、今年も屋根や雨どいの掃除をいつもの業者に頼んだ。これでなんとか、生活環境の放射線量は平常値にもどっただろう。でも、恒例の作業とはいえ、入念な洗い流しまでつづけなければならない面倒な大掃除が、これから5~10年もつづくのかと思うと、ふだんから樹木の恩恵Click!を多分に受けているとはいえ、やはりとても気が重くなるのだ。

◆写真上:落ち葉掃きのあと、家の周囲を計測すると0.11μSv/hまで低減した。
◆写真中上:秋口に撮影した、葉を落とす前の膨大なケヤキの枝葉。
◆写真中下:同様に秋に撮影した近所の公園の落ち葉で、0.25~0.28μSv/hを記録した。
◆写真下:左は、1月14日の大雪風景だが放射性物質はほとんど含まれていなかった。右は、3階のベランダで計測したところ落ち葉がないにもかかわらず0.20μSv/hを超えていた。