暮れの大掃除で、東日本大震災の2011年Click!と翌2012年Click!につづき、昨年もベランダや庭先の放射線測定を行なってみた。おしなべて線量は漸減しているのだが、少し特徴的な傾向が見えているので記録しておきたい。この特徴は、落合地域全体Click!にもみられる現象かもしれない。また、これはケヤキやクヌギ、コナラ、ミズナなど根が垂直に深くのびる樹木が多い、武蔵野原生林に特徴的な現象なのかもしれないのだが・・・。
 毎年、落ち葉が大量に積もる裏庭から測定しはじめてみたところ、堆積した落ち葉上は0.14~0.16µSV/hと思ったほど高くはない。昨年に比べ、0.02~0.04µSV/hほど下がっていて、いまのところケヤキの葉に明らかな濃縮現象はみられない。これは、武蔵野原生林を構成する広葉樹(落葉樹)の多くが、地表近くの浅い地中に根を拡げるのではなく、地中深く垂直方向へ根をのばす性格が強いことから、地表近くに堆積している放射性物質を吸収していない・・・という傾向からなのかもしれない。たとえば、スギなど比較的浅い地中に根を張る針葉樹が落葉したケースでは、まったく異なる数値をしめす可能性がありそうだ。
 ところが、いつもどおりケヤキの落ち葉をかき集めて45リットルのビニール袋に入れ、念のためにそれぞれの袋を測定したところ、測定値がいきなり0.25~0.28µSV/hにハネ上がった。堆積した落ち葉の上では昨年より低くなっているのに、それを掃き集めて袋に入れたとたんに放射線量が上昇するというのは、考えられる可能性はひとつしかない。落ち葉掃きは、当然のことながら地表の落ち葉だけを正確にすくい取って掃除するわけではなく、地表の塵や土も同時に掃き集めて、落ち葉といっしょに棄てることになる。つまり、落ち葉の下にあった地表の土や塵に、比較的高い放射性物質を含んだモノが存在した・・・ということだ。
 これらの微細な土や塵が事故当時と同一のものか、あるいはその後に堆積したものなのかは不明だが、少なくとも台風や大雨をへているにもかかわらず、裏庭の表土(ないしは塵)はこの3年間でもっとも高い放射線の数値を記録したことになる。裏庭(北側)なので、四方を家々や塀、大きな樹木などに囲まれて風雨が吹きこみにくく、表土や塵埃が飛ばされにくい環境であることを考慮すれば、さらに、新たに漏れた放射性物質が北風にのって事故以来、福島第一原発から飛来していないと仮定すれば、この高めの数値は事故当時あるいは一昨年の落ち葉(高線量)の残りが朽ちてて塵埃状になり、土の表面に薄っすらと堆積していた・・・と考えるのが妥当だろう。

 この傾向は、南に面したベランダでも見られた。ベランダの排水溝にたまった落ち葉の上を測定してみたところ、0.17~0.18µSV/hと昨年より下がっているので安心していたのだが、落ち葉をすべて取り除いて念入りに水洗いし、念のために溝の排水口を測定してみてちょっとビックリした。この3年間、大掃除のたびにタワシでごしごし入念に水洗いをし、その都度、放射線の測定値をできるだけ0.15µSV/h前後へ下げていたにもかかわらず、今回も0.30µSV/hに近い数値が計測された。(ちなみにピーク時は測定器が警告音を鳴らす0.40µSV/h) 放射性物質は、驚くほどしつこいのがわかる。ベランダのケースも、落ち葉に含まれる放射性物質は昨年より低減しているにもかかわらず、一昨年より前の枯れ葉が朽ち果ててできたと思われる微細な塵埃には、いまだ高い線量が含まれているということなのだろう。ベランダはコンクリート製であり、その微小な目地に詰まった塵は、なかなかタワシで水洗い程度では除去できないと思われる。
 事故直後に高い数値をしめした、庭(南側)のクロモチやキンモクセイの樹の下も、大掃除ついでに測定してみる。これらの土面は、事故があった2011年にはピーク時で0.23µSV/hを記録したのだが、今年の測定では双方の樹下ともに0.18µSV/hに低減している。おそらく、雨水によって地表の放射性物質が地中に浸みこんだからだろう。土を少し掘り起こして測定すれば、おそらく高い数値の層があるはずだ。地表の線量が減っているのは嬉しいのだけれど、2階以上のベランダや屋根、庇、雨どいなどに降り積もっていると思われる、枯れ葉の塵埃が事故当時の数値からほとんど変化していないのが気になるところだ。塵埃は風に飛ばされ、どんな場所にでも吹きこむし、また呼吸によって体内に取りこむ可能性が事故直後よりもはるかに高いといえるだろう。
 
 余談だけれど、東都生協でとどく各地のコメを、事故直後からできるだけ測定するようにしている。東都生協は、高レベルの線量を記録した千葉県産のホウレンソウ(本来ならば出荷停止)を見逃して出荷してしまい、謝罪のパンフを各家庭に配った経緯がある。いまでは、より厳密な検査体制ができているようなので不安はそれほどでもないのだが、厳密に測定しているのであろう閾値以下の各地のコメが、どのような傾向をしめすものなのかを知っておきたかったからだ。
 わたしの家では、主食であるコメを東京よりも北の地域から取り寄せることが多い。これは、原発事故の前後にかかわらず、わが家の味覚に合うコメは東北各県や新潟、長野、そしてたまに気分を変えてあっさり系の北海道とすべて北国産なので、購入する産地はまったく変えていない。事故直後から昨年にかけては、0.12µSV/h前後をしめすコメがほとんどで、それ以下のコメは存在しなかった。しかし、昨年の秋からようやく0.08~0.09µSV/hのコシヒカリやアキタコマチ、ササニシキが流通するようになってきている。つまり、本来の自然に近い数値のコメだ。
 ただし、コメの内部に含まれている放射線量ではなく、あくまで米から出ている表面の放射線値であることに留意する必要があるだろう。測定は、放射線測定器をラップで入念にくるみ、袋詰めのコメの中へ沈めるという方法なので、厳密にコメの中に含まれた放射性物質の分析・特定とは次元が異なるものだ。あくまでも、表面だけの測定にすぎないのだが、それでもコメから放射している線量はそれなりに測ることができる。
 3年つづけて測定した結果をみると、同県産や同地域産のコメであっても、また同じアキタコマチやコシヒカリといった銘柄であっても、測定値がバラバラで一定していない。同地域の同じ町内で収穫され、数値の低かったコメを連続して注文しても、ときに0.11µSV/hだったり0.15µSV/hだったりとまちまちだ。これは、収穫期によって放射線の濃度が上下するのではなく、同じ町内の土地でも放射性物質が多く降りそそいだ田圃と、そうでもない田圃がまだらに存在していることが想定できる現象だ。あるいは、灌漑に用いている水系の差にも原因があるのかもしれない。
 
 今年に入り、某県産のコシヒカリが事故直後と同様の0.16µSV/hと、通常線値の倍もある数値を記録した。わが家で想定できるように、周囲の山々(森林)から風に運ばれてきた腐葉土あるいは塵埃が田圃に降りそそいでいるものか、あるいは山の湧水源から流れてくる水系に課題があるのかは不明だが、東京湾岸の河口に堆積したきわめて高い放射線濃度を知るにつけ、これからさまざまな問題が起きてくるのではないかと、いまだ測定器を手放せないのが憂鬱でもどかしい。

◆写真上:相変わらず南側ベランダの排水溝は、高い数値を記録しつづけている。
◆写真中上:毎年、膨大な枯れ葉を散らす裏の樹木群。台風で大ケヤキの枝の半分が幹から折れたClick!にもかかわらず、落ち葉の量はそれほど変わらないのが不思議だ。
◆写真中下:昨年よりも線量が下がっている、南のクロモチ樹下(左)と南東側のコケ上(右)。
◆写真下:今年に入って、線量が0.10μSV/hを超えた比較的高めな某県産のコシヒカリ(左)と、同じ地域だが精米されていない玄米のままのコシヒカリ(右)。同一地域の生産米にもかかわらず玄米のほうが線量が低いのは、田圃の土壌汚染がまだら状であることをうかがわせる。