学生時代に、どうしても手に入らないコルトレーンのブートレグ(海賊盤)があると、高田馬場駅から早稲田通りを歩いてJAZZスポット「イントロ」へと聴きに通ったものだ。この店は、なにしろ完全ディスコグラフィーを出版できるほど、コルトレーンのアルバムがズラリとなんでも揃っていた。ヨーロッパの果てでプレスされたブートレグも、どうやって取り寄せたものか、この店に行くとかなり早くからリクエストすることができた。
 久しぶりに寄ってみようと思って歩いていくと、地下へとおりるシャッターが閉まっていた。一瞬、つぶれてしまったのかと思ったが、JAZZイントロの看板はちゃんと出ている。帰ってネットで調べてみたら、いつの間にかJAZZ喫茶はやめてしまって、いまではジャズバー兼ライブハウスに生まれ変わり、夜しか営業してないようなのだ。せっかく、久々にコルトレーンのディスコグラフィーを手に入れようと思ったわたしは、肩すかしを食らってしまった。いや、いまどきコルトレーンのディスコグラフィーなどを出版しても、買いにくるJAZZファンなんてめったにいないだろう。だから、店の営業方針が変る前、とうの昔に出版をやめてしまっていたに違いない。わたしが「イントロ」へ通わなくなってから、少なく見積っても18年が過ぎていた。

 先日、書棚を整理していたら、「イントロ」のコルトレーン完全ディスコグラフィーが出てきた。そう、世界のどこかでブートレグが出ると改訂版が出されて版を重ね、しかも掲載写真はすべてオリジナルジャケットという、コルトレーン・マニアにはたまらない超ヲタクなカタログだったのだ。その中で、1977年7月1日版には、「このディスコグラフィーに依って、コルトレーン・ファンが一人でも増えれば、10回忌を迎えた今年、あの世のコルトレーンへの最高のはなむけになることを信じます」と書いてある。確か、アルテックだったスピーカーの音とともに甦える、心跳ねあがっては疲れる「イントロ」な時間。
 38回忌を迎える今年、2005年の7月、60年代の熱い息吹をいまに伝えるコルトレーンのファンは、減りこそすれ増えてはいないように思う。「イントロ」の営業方針の転換が、言わず語らずそれを示しているようだ。

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■写真:『JOHN COLTRANE DISCOGRAPHY』(intro)1977年7月1日版。