落合地域に残るさまざまな物語ポイント、たとえば2倍に近い面積へ拡張が予定されているおとめ山(御留山)公園Click!、1日も早い保存が待たれる中村彝アトリエClick!、タヌキの森Click!-野鳥の森公園-薬王院の森の緑地帯、4月28日に「佐伯祐三アトリエ記念館」として再オープンする佐伯アトリエClick!、目白文化村の島峯徹Click!を記念する延寿東流公園Click!、目白文化村Click!に残る近代建築作品、アビラ村(芸術村)Click!に象徴的な金山平三アトリエClick!(勝手に名所にしてすみません<(__)>)、そして四ノ坂の林芙美子記念館(手塚緑敏アトリエClick!)と、それまでやや離れた位置に点で散在していたものが線で結ばれ、やがて下落合地域(旧・下落合全域)に描かれた線が文化的な、あるいは芸術的な“面”としての存在を強く主張する未来が、少しずつ見えてきている。
 この点から線へ、線から面へと進化(深化)するには、当然のことながら下落合の南に拡がる、同じく文学や美術に関する物語の宝庫でもある上落合地域、美術家たちが数多く往来した、北側に拡がる長崎・池袋地域を抜きにしては考えられない。すなわち、上落合・下落合・長崎・高田(目白)・池袋の街々は一体の“面”であり、特に芸術的な側面からは同一のエリアだと認識してこそ、よりダイナミックな地域表現が、あるいはスケーラブルな物語が展開でき、アピール度の高い有機的かつ重層的な地域としての“見せ方”(見え方)が可能になるのだと思う。
 
 今回の「佐伯祐三-下落合の風景-」展Click!の図録Click!では、佐伯が暮らしていたのと同時期、大正末から昭和最初期にかけて近所に住んでいた画家たち、または近所で仕事をして『下落合風景』Click!とどこかで関連している画家たちのマップも掲載している。そこには、上落合と下落合の境界のみならず、新宿区や豊島区の行政区分も存在しない。佐伯の周囲にいた画家たちが暮らした、「上落合の橋の附近」Click!の様子や長崎の中央美術社の周辺、また里見勝蔵Click!らの「池袋シンフォニー」のことまで収録している。きょうは図録に先がけ、PhotoShopでマップを作ってくださった制作者のご許可を得て、ひと足早くご紹介しよう。(冒頭のマップがそれだ)
★上記「上落合の橋の附近」と思われた作品実物を、のちに日動画廊で間近に拝見し、「八島さんの前通り」(1927年6月ごろ)の1作であることが判明している。詳細はこちらの記事Click!で。

 「佐伯祐三アトリエご近所マップ」には、図録に登場する佐伯周辺にいた画家たちが網羅されている。二科展と帝展の別なく、佐伯と同時代(大正末~昭和最初期)に下落合の風景を描いていた、あるいは1930年協会で活躍していた、さらには同協会とどこかでつながっている画家たちを選んで掲載している。画面をクリックいただくと、より細部まで拡大した画像をダウンロードできるので、マップを印刷して佐伯ゆかりの画家たちの足跡を訪ねながら、下落合→長崎→池袋または下落合→上落合と、新宿区と豊島区の別なく散策することができる。なお、マップに描かれた鉄道駅や川、道筋などは、1927年(昭和2)現在のものとなっているので、この地図だけを頼りに街を歩かれると、下落合駅Click!は永久に見つからないのでご注意いただきたい。(爆!)
 
 このマップは、あくまでも佐伯祐三Click!とその時代へ視点をすえた特別な「佐伯マップ」だが、もし再び機会があれば長崎・下落合・上落合にまたがる、より大規模な「美術マップ」、あるいは文学や近代建築作品Click!をも含めた「芸術マップ」を、それぞれの物語を踏まえながら制作すれば、街歩きには最適な楽しい散歩地図ができあがるだろう。いかにも地図らしい正確な描写ではなく、散歩者が主体的に散策を楽しめる(換言すれば、意識的に目標物を探す楽しみの余地を残す)、イラストを多用したマップが適しているのではないだろうか。
 先日、図録の色校に関する最終チェックを美術家の方とご一緒に終えた。また、いろいろと“赤入れ”が発生してしまったのだけれど、オフセット印刷なので青焼きの念校で文字面はチェックできただろうか。印刷部数が2,000部と少なめなので、人気の高い佐伯祐三展の図録のこと、展覧会が終了する前になくなってしまうのではないかと、ちょっと心配なのだが・・・。
 図録内には、この「ご近所マップ」のほかに、カラー版の「下落合事情明細図」Click!(1926年・大正15)を用いた展示される『下落合風景』作品の描画ポイントマップも収録されているので、図録片手に落合地域を東から西へと散策できる工夫もほどこされている。『下落合風景』の“現場”に立って、作品に描かれた風情と現状とを見比べるのも面白いだろう。最後になってしまったが、マップのサエキくんがなにか話したがっているようなので、ちょっと聞いてあげてほしい。
 
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 あのな~、わしな~、マップのアトリエんとこに両手広げてな、エエ気持ちで立っとったらな、博物館のお人からな、「どうかサエキくんだけは、かんべんしてください!」言われてもうたん。そやさかいな、図録のマップにはな、わしはどこにもおらへんちゅうわけや。ほんま、せっかく図緑デビューでけるゥ思うとったんやけどな、でけへんのやて。
 イラストマップ作らはった、エライお人にそないゆーたらな~、ナントカPapaちゅうけったいでいかがわしいブログでなら、裏マップ載せてもかまへんやろ言わはるさかい、わしな~、こっちでマップデビューすることにしてん。そない事情でな、わしがちゃんと載っとる「ご近所マップ」はな、ここでしかダウンロードでけへんちゅうわけやねん。そやさかいな、ぎょうさんダウンロードして楽しんでや。・・・わし、ぼちぼちな、下落合のそこら描きに出かけるわ。ほな、さいなら。

■写真上:サエキくんが“いるバージョン”の「ご近所マップ」で、図録には“いないバージョン”が掲載されている。クリックすると、大きな画像データがダウンロードできる。
■写真中上:左は、新宿歴史博物館Click!の正面入口。右は、その中庭にある見事なサクラ。
■写真中下:左は、リニューアル前の佐伯アトリエ。右は、下落合の写生に出かけるサエキくん。
■写真下:左は、保存が待たれる中村彝アトリエ。右は、「えっと、キミはサエキくん、だったかな。ところで、ボクのアトリエはどうなってるのかね」、「あと、もうちょいの辛抱でんがな、中村センセ」。