前回は、落合地域の地表や空中(地表1m)の放射線量を測定したのだが、今回は自宅とその周囲を細かく測定してみた。おそらく、旧・下落合の東部地域に建つ家々を測定すると、降雨のパターンや風向きが近似していると思われるので、似たような結果が出るのではなかろうか。測定の条件や方法、使用機器などはまったく同様なので、前回の記事Click!を参照していただきたい。公園や道路といった開けた場所あるいは樹木に覆われた場所と、家屋のように不定形で突起のある構造物とでは、おのずと放射性物質の滞留具合も変わってくるだろう。
 このところ住民たちの声に押され、各地の自治体でも放射線測定をするケースが増えている。でも、不思議に思うのは自治体が発表する数値と、専門の研究機関やNPO、民間の団体、学校の教師たちが自主的に調べている数値などとの間には、かなりの隔たりが見られる。前者の自治体が発表する測定値は総じて低く、後者の各種機関や団体の調査結果は相対的に高い。しかも、後者は測定機器が団体や機関ごとで個々バラバラであるにもかかわらず、測定数値は近い値を示している。そして、わたしが測定してまわった値も後者の数値に近似している。
 なお、測定した放射線量から東京における自然放射線の被曝量を差し引き、原発事故のフォールアウトに起因する、残留放射線量と思われる「純粋」数値のみを発表している自治体もあるが、まったく意味が不明だ。問題は、事故や自然を問わず放射線の被曝総量だと思われるのだが、そこからあえて自然放射線の被曝量を引き算する意味がわからない。
 さて、住宅などの建築物では、たとえば屋根(最上階)などはその後の降雨でかなり洗い流されているので、放射線の数値は相対的に低いと思われるが、雨どいやベランダの隅(排水溝や排水口)、そこに生えた苔類や堆積した落ち葉あるいは土埃などの上は、比較的高めではないかと想定できるだろう。また、家屋周囲の庭や通路などでは、放射性物質が大量にフォールアウトした雨天の2日間(2011年3月21日~22日)の風向きによって、残留している放射性物質の線量に大きなちがいが出ていそうだ。案のじょう、両日の下落合はおもに南寄り、あるいは南西寄りの風が吹いていたような傾向がみられ、おしなべて南側と南西側の放射線測定値が高い結果となった。
 
 ただし、この風向きや降雨は下落合におけるわたしの家とその近辺にみられる傾向であって、たとえばさらに南側の上戸塚(高田馬場)や上落合、北側の目白や長崎(椎名町)でも同様の風向きや降雨だったかどうかはわからない。ほんのわずかな距離のちがいで、フォールアウトによる放射線量が大きく異なることは、Facebookにおける放射線の専門測定チームが行っている新宿区内の綿密で本格的な土壌調査Click!でも明らかだろう。わずか1.5kmほどしか離れていない地点で、各種セシウム別の土壌汚染度が10倍も異なる、新宿区市谷砂土町と同区富久町の測定ケーススタディが挙げられている。東京の各地で天候がかなり細かく異なることは、放射線に関連するテーマではないけれど、以前に風景画のテーマで記事Click!に書いたとおりだ。
 また、同一エリアでも、わずか数十メートルの距離を隔てて、測定値に大きなちがいが見られることは、前の記事Click!にも書いた。風向きや降雨の強弱、地形や家並み、樹木の有無などを含めて、局所的にさまざまなケースがあるのだろう。したがって、以下の測定結果は新宿区一般、あるいは落合地域一般として敷衍化することはできない。あくまでも、現・下落合南側の家屋とその周囲でピンポイント的にみられる数値傾向であることを、あらかじめご承知おき願いたい。
 測定したのは、8月12日(晴)の午前中で、風がほとんどない日だった。まず、自宅の外側から測定しはじめた。南側の車庫にしているレンガ敷きの地面では、雨水がレンガに浸みこみ水はけがあまりよくないせいか、地表で0.17~0.19μSv/hとやや高めの数値が出た。クルマの陰にならず、雨水が直接当たるところの値だ。次に、車庫の西側、建物の南西側で隣家との境界に植わっている、クロモチの樹下の草むらを測ってみる。土面の地表は0.22~0.23μSv/hと高めで、樹の幹に沿った地上1mでも0.16~0.18μSv/hと、それほど低くはならなかった。放射性物質が、クロモチの複雑に入り組んだ枝葉へ付着したまま、洗い流されていないのかもしれない。
 
 
 次に、家の南東にある玄関わき、2階の屋根上まで育ってしまったキンモクセイの周囲を測定してみる。樹下の土面は0.21~0.23μSv/hと高めで、クロモチの樹下とほとんど同じ数値を示した。しかし、地上1mの空中では0.09~0.11μSv/hとかなり低く、室内のレベルに近い測定値だった。これは玄関口が道路に面して開けているのと、やはり定期的に清掃を行っているせいではないかと思われる。別に大がかりな手入れをしなくても、定期的に少しずつ清掃を繰り返すだけで、放射性物質は拡散され測定値がきわめて低い値になることは、前回の記事でも触れたとおりだ。常にていねいな手入れ管理がなされている公園や児童遊園の測定値が、自然公園などに比べて非常に低い数値だったのが象徴的にみられた現象だ。
 自宅の東側へとまわり、ドクダミが生えた草むらの土面を測ってみる。地表が0.14~0.16μSv/hで、地上1mが0.11~0.13と思っていたよりもかなり低い数値だった。家の北側へまわり、やはり土面の地表を測ってみると、0.11~0.13μSv/hと今回の測定ではもっとも低い数値を示した。地表1mは、0.08~0.10μSv/hとほとんど室内並みの値だった。これにより、北側が建物の陰になって、放射性物質のフォールアウトをあまり受けなかったと想定することができ、建物内部のベランダなどでも南側の数値が高そうだと、ある程度予測することができた。東京に大量のフォールアウトがあった両日、下落合のわたしの自宅周辺では南寄りの風雨が吹きつけていたことになる。

 自宅の西側には、侵入防止の防犯砂利が敷きつめてあるせいか、あまり水はけがよくなかったようだ。地表が0.19~0.21μSv/hで、空中が0.16~0.18μSv/hとやや高めな結果となった。念のため、家の北東側にある雨どいの下も測ったけれど、地表へ雨水をそのまま流す方式ではなく、下水へ直接流しこむ密閉型の雨どいのため、結果はかなり低い数値だった。雨どいが地面に潜りこむ地表が0.12~0.14μSv/hで、地上1mの雨どい沿いでも0.10~0.12μSv/hと低かった。
                                                           <つづく>

◆写真上:今回の測定環境は気温が非常に高く、測定器の過熱による誤計測を防ぐために、筐体が熱くなった場合は10分間の“冷却時間”を測定の間にはさんでいる。風雨がおもに南から吹きつけたとみられ、おしなべて南側が高く北側が低い測定結果となった。
◆写真中上:車庫のレンガ表面(左)と、南西樹下の草むら(右)の測定。
◆写真中下:値が高かった南側の樹下(上左)と、線量が低かった東側草むら(上右)。ほとんど室内の線量レベルだった北側草むら(下左)と、防犯砂利で値が比較的高かった西側地面(下右)。
◆写真下:自宅周囲の庭や地面における放射線測定値。(2011年8月12日現在)