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佐伯アトリエをちょっとだけ拝見。 [気になる下落合]

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 『下落合風景』の描画ポイントClick!が、どうしてもわからない作品が出てきてしまい、少しはなにか思いつくかもしれないと、久しぶりに佐伯アトリエへ出かけてみた。アトリエの中は非公開なのだけれど、たまたま春の“風通し”のためにドアが開け放たれていたので、管理人の方にお断りしてさっそく撮影させていただく。
 新宿区によれば、佐伯アトリエは大規模なメンテナンスのあと、2010年(平成22)より一般に公開される予定だとのこと。中村彝アトリエClick!ともども、下落合の美術史の拠点となればうれしいかぎりだ。佐伯アトリエの内部は、以前見せていただいたときとほとんど変わってはいない。基礎と床面を少し補強すれば、大勢の方々がアトリエ内に入っても床が抜けるようなことはないだろう。母屋跡のスペースが空いているので、ここに小さな資料館のようなものを造っても面白いと思う。おそらく、日本でもっとも人気が高い洋画家のアトリエ公園のひとつとなるにちがいない。
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 たまたま、近所にお住まいの90歳になる女性がみえていたので、さっそく取材させていただいた。生まれたときから下落合にお住まいで、佐伯祐三がここで暮らしていたときからご存じの方だ。佐伯アトリエのことよりも、わたしはご近所のことをうかがいたかったのだ。アトリエ西隣りの「八島さん」Click!のことをまっ先に訊ねたのだけれど、ご記憶ではなかった。酒井億尋についても、まったく記憶されていない。この両家はひょっとすると、昭和に入ると早々に引っ越しているのかもしれない。そのかわり、「青柳さん」は鮮明に記憶されていた。
その後、八島邸は1960年代まで存在していることが確認できた。
 落合尋常小学校(現・落一小学校)の教師だった青柳辰代Click!のことは、「青柳先生」と親しみをこめて話された。「テニス」Click!を小学校へ寄贈したことも、よく憶えていらした。ご主人が日本郵船へ勤めていたことはご存じだったが、「交友会」をつくって地域活動をしていたことは記憶にないとのこと。聖母病院Click!ができる前、南へ向かって半島のように突き出た丘のことを、その付け根に住んでいた青柳家にちなんで「青柳ヶ原」と呼んでいたそうだ。
 また、「青柳ヶ原」の西側の谷を、大正末には「不動谷」ではなく「西ヶ谷」と呼んでいたこともお教えいただいた。聖母坂から東側の現・下落合にお住まいの方は、諏訪谷の反対側の谷(現・聖母病院の裏谷)を「不動谷」Click!と呼ばれることが多いし、なぜそれがいつの間にか第四文化村の谷間に移ってしまったのかは不明だとされている。確かに、江戸期から明治にかけての図絵や地図でも、そのように地名が採集されているのだけれど、下落合の地域によって呼び方が違っていたものか、あるいは大正期のある時期を境にそう呼ばれるようになってしまったのかは不明のままだ。
 関東大震災のとき、佐伯アトリエの周辺に住んでいた方たちは、みな「青柳ヶ原」へと避難している。そのとき、佐伯一家は第1次渡仏をひかえて静養に出かけ、下落合のアトリエには不在だった。佐伯アトリエの公開は、ありきたりなパリでの仕事をなぞるのではなく、このような落合地域に密着したエピソードとともに紹介すると、がぜん特色が出せるような気がするのだが・・・。
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 佐伯祐三Click!中村彝Click!のアトリエは、直線距離でわずか500mほどしか離れていない。このふたり、下落合のどこかで出会ってそうなのだけれど、曾宮一念Click!はそれを否定している。
  
 (前略)ある本を見たら、佐伯が落合に家を建てたのは、中村彝がいたからそれに倣って、彝に親しみをこめて落合に移った、というようなことが書いてございましたけれども、これは嘘です。一回目の洋行から帰ってきた時に、佐伯がちょうどカンバスを枠にはってまして、その彼の作品を初めて見たのが、私と前田寛治です。(中略)そん時前田が中村の「エロシェンコ氏の像」の写真を持ってましてね、「これどうや」って佐伯に見せた。そうしたら佐伯は「ここの線が気に入らん」とかなんとか言ってね、実際そうかもしれない。中村には一度も会ったことがないし、佐伯が頼みもしないから、私も中村の所へ連れてったこともないし。まあ会わせれば、友達になったろうと思うんですけれども、なにも言わなかったから黙ってた。そういうふうでしたから、中村がいたために佐伯が落合に来たってことは、これは全然まちがいでございます。 (『新宿歴史博物館紀要・創刊号』より)
  
佐伯事情明細図1926.jpg 佐伯アトリエ3.JPG
 ただし、第1次の滞仏からもどった佐伯は、当初はヴラマンク、帰国の前はゴッホからの強烈な影響を受けていたはずだから、ルノアール調の『エロシェンコ氏の像』を観ても、ピンとこなくて「線が気に入らん」状態になっていたのかもしれない。下落合へアトリエを建てたころの佐伯とは、絵画への眼差しがおそらく“別人”のように変貌していたはずだ。

■写真上:春の風通しをする佐伯アトリエ。毎日すき焼きばかり食べた、中二階のドアが見える。
■写真中:アトリエ内。曾宮一念が壁塗りを手伝った、増築洋間まで撮影させていただいた。
■写真下は、1926年(大正15)の「下落合事情明細図」。聖母病院が建設前の「青柳ヶ原」は、関東大震災のとき避難場所となった。は、旧・酒井億尋邸の側から見た佐伯アトリエ。


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ChinchikoPapa

「国産大豆のおいしい納豆」は、スーパーで見たことがあります。
nice!をありがとうございました。>納豆(710)な奇人さん
by ChinchikoPapa (2008-04-12 19:19) 

ChinchikoPapa

「内部のうだる」も気になりますね。(笑)
nice!をありがとうございました。>Krauseさん
by ChinchikoPapa (2008-04-12 19:22) 

ChinchikoPapa

海外事例を拝見すると、日本の「長寿命住宅」=新たに建て直しという、建設業者のほうへ向いたコンセプト作りの感が強くなりますね。nice!をありがとうございました。>一真さん
by ChinchikoPapa (2008-04-12 19:31) 

ChinchikoPapa

こちらの枝垂れは、そろそろ終わりに近いです。次は八重が楽しみですね。
nice!をありがとうございました。>takagakiさん
by ChinchikoPapa (2008-04-12 19:38) 

ChinchikoPapa

you tubeにロリンズのインタビューが登録されていますが、髪と髭を黒く染めなくなってからのロリンズは、やっぱりどこか別人のようです。nice!をありがとうございました。>xml_xslさん
by ChinchikoPapa (2008-04-13 18:31) 

mayui

こんばんわ。
もうすぐ佐伯祐三展がそごう美術館で開催されますね。とても楽しみです。
没後80年と聞いて、以外にも最近の人という事に改めて気が付きました。
ご存命なら、ひょっとして今でも絵筆を握っていらしたかもと思うと、残念な限りです。
私事ですが、高校、大学と美術部で下手ながら油絵を描いていました。
そのころから佐伯祐三は私にとって特別な画家で、画集を見るといつも何か心に刺さってくるものがあって、今だにそれが何なのかよくわからないでいます。
決して明るい感じの画風ではないし、むしろ一種の暗さがあって、好きな画家というわけではないのですが、気になって見ないではいられないのです。
そういえば、NHKで彼の生涯をドラマ化したものがあったと思うのですが
chinchikopapaさんはご存知ですか?
確か佐伯役は根津甚八だったと思いますが‥。

by mayui (2008-04-18 21:16) 

ChinchikoPapa

Mayuiさん、コメントをありがとうございます。
先日、そごう美術館の学芸員の方が下落合の「カフェ杏奴」にみえまして、佐伯展の割引チケットとパンフレットを、サエキくんに預けていってくださいました。(^^; よろしければ、「杏奴」で割引券をお受け取りください。まだ、残っていると思います。
1980年にNHK特集でドラマ化されたのは、中島丈博・脚本の『襤褸と宝石-佐伯祐三の生涯-』です。先日、シナリオとスチール写真とを入手していますので、来週あたり書いて見たいと思っています。割引チケットの件も、佐伯がらみで記事にアップいたしますね。

by ChinchikoPapa (2008-04-18 23:01) 

ChinchikoPapa

いつもリンク先までnice!をいただき、ありがとうございます。>kurakichiさん
by ChinchikoPapa (2009-10-05 13:37) 

ChinchikoPapa

こちらにも、nice!をありがとうございました。>Yukiさん(イタリア職人の手作りタイルさん)

by ChinchikoPapa (2010-03-29 12:10) 

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