目白文化村での映画ロケは75年ぶり? [気になる下落合]
下町の記事を、3本つづけてアップする予定だったのだが、この夏、旧・下落合の目白文化村でロケが行なわれた映画『スープ・オペラ』が上映中なので、そちらの記事を優先させていただきたい。
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第二文化村Click!から南へ下る坂道(この坂道は、最近名前が付いたのを刑部昭一様Click!からご教示いただいたのだが、失念してしまった)の途中に、昔から面白い標識がある。ちょうど、以前にご紹介した宮下琢郎Click!が『落合風景』(1930年)を描いたあたりで、武者小路実篤Click!が住んでいた下落合1731番地界隈だ。第二文化村の尾根上から下ってきた道が、一度凹地状にへこみ、再び下って中ノ道(下の道)Click!へと通じている。もっとも、戦前から改正道路(山手通り)の工事で坂道は分断され、ちょうど真ん中の部分が途切れているのだが・・・。
少し前まで、その標識には「この先水溜りがある場合/通行不可」と書かれていたのだが、最近は「通行注意」に変わった。わたしとしては、水たまりができると「通行不可」のほうが謎めいていて好きだったのだけれど、それじゃあんまりじゃんか・・・というご意見がどこからか出たのだろう、「注意」の表記になった。事実、大雨が降って坂道の凹地に「水溜り」(というか池だ)ができると、標識のイラストのように車が水没してしまう。つまり、水陸両用車でもない限り、大きな「水溜り」がができるとクルマでは危なくて通行できなかった地点なのだ。わたしは、実際に水没自動車の現場を見ていないが、過去にそのような事件が発生したのだろう。「文化村自動車水没事件」の記録がどこかで見つかったら、ぜひ“落合の事件簿”に追加したい。
さて、きょうは道路標識の話ではなかった。第二文化村の安東邸が、映画『スープ・オペラ』(瀧本智行監督)の舞台となり、丸ごとロケ現場として使われた。少し前に、Y&Eさんからコメントをいただいたので、さっそく上映中の『スープ・オペラ』を観にいった。原作は阿川佐和子なのだが、ほのぼの系ドラマでちょいと退屈するかな?・・・と思ったら、坂井真紀の演技がとてもよく、けっこう2時間たっぷり楽しめた。映評は負け犬さんClick!が書いてくださると嬉しいのだが、最近はお忙しいのかなかなか原稿をいただけない。もっとも、彼女の感覚からするとピンとこない映画かもしれないのだが。(爆!)
目白文化村の邸を丸ごと使って映画のロケが行なわれたのは、戦前に夏川静枝Click!が主演してロケーションが行なわれたとみられる、第一文化村の中村邸Click!以来ではないだろうか? この作品は、いまだフィルムセンターなどでも探し当てられていないのだけれど、戦災でフィルムが焼失してしまい1本も残っていない可能性が高いようにも思える。
こちらでも何度かご紹介しているけれど、安東邸のおばあちゃんは日本橋人形町のご出身で、わたしも何度か取材でお訪ねし、下落合ばかりでなく戦前の日本橋界隈のお話もうかがっている。クルマ水没標識のあるずっと坂下に、李香蘭Click!が住んでいたのをご教示いただいたのも、安東おばあちゃんからだ。わたしの親父は李香蘭が好きだったので、有楽町の日劇を三重に取り巻いた行列に並んでいたらしいという話をすると、「すごい人気だったのよ!」と坂下の右手を指しながら話された。大正期にみられる和洋折衷住宅の代表的な意匠をしている安東邸は、第二文化村が1923年(大正12)に販売された翌年、ほとんど最初期に建設されている。
映画の中に登場するのは、邸の1階と2階のほぼ全体なのだが、部分的にスタジオ撮りが混じっているのかもしれない。また、庭先でのロケが頻繁に行なわれたらしく、飼いネコの“リアン”がいろいろと演技をするシーンには、普段いうことをきかないネコに手を焼いているわたしとしては感心してしまった。大正期に応接間として設計され、戦後はお嬢様のピアノ室として使われていた洋間の部分が、映画に登場した部屋のどれに当たるのかはわからなかった。
各部屋とも非常にしったりした造りをしていて、ドアや窓、天井などの何気ないデザインにも凝った工夫が施されている。黒光りした柱や廊下、縁側、ドアなどが撮影ライトを浴びてしっとりと美しく、和室はあまりロケに使用されずに、洋間中心で撮影が進められたようだ。いかにも、大正期のモダンな和洋折衷住宅で、建設時期が第二文化村の販売時期に近いところをみると、建築を請け負ったのは箱根土地Click!の建築部Click!なのだろうか。1945年(昭和20)4月13日の文化村空襲Click!では、尾根上に近い2棟先まで延焼しているが、当時は淀橋区長が住んでいた北隣りの邸と安東邸は、かろうじて延焼からまぬがれている。
あまり映画について書くと、ネタバレになってしまうのでマズイのだが、原作者か監督のどちらかが下落合の地域性を知ってか知らずか、居候としてやってくるのがフランスへの遊学経験もある洋画家なのには、思わず笑ってしまった。藤竜也は、あまり画家ってタイプじゃないと思うのだが、わたしが好きな加賀まりこが同時に出ていたので、画面がときどき引きしまってそれほど不自然さは気にならなかった。感心したのは、映画の小道具として集められた家具調度類だ。特にダイニングに置かれたイスやテーブルは、ほんとうに大正期に製作されたものではないだろうか? 独特な“ねじり”のデザインが施されたイスは、中村彝Click!のアトリエに置かれていたイスClick!に意匠がよく似ており、コーディネーターが苦労して当時の家具をどこからか探してきたのではないだろうか。
目白文化村がお気に入りの方、近代建築に興味がおありの方、またネコやシャンソンがお好きな方にはお奨めの『スープ・オペラ』なのだが、上映館が少なめで地味な作品なのがちょっと残念だ。新宿ピカデリーは昨日で終了のはずだったのだが、きょうから上映延長が決まったようなので好評なのだろう。そのうちDVD化され、自宅で目白文化村に建てられた和洋折衷の大正建築を、じっくりと観賞することができるのだろうが、映画はやっぱり映画館で観ないと面白くない。
★『スープ・オペラ』公式サイトClick!
●シネスイッチ銀座Click! 品川プリンスシネマClick!~10月29日 新宿ピカデリーClick!~11月4日
◆写真上:第二文化村の販売直後、1924年(大正13)に建築された安東邸。
◆写真中上:第二文化村から山手通りへと抜ける坂にある標識で、3年前(左)と現在(右)。
◆写真中下/下:『スープ・オペラ』のワンシーンと、猛暑の中でロケーションが行なわれた安東邸。
情報ありがとうございます。これは見なくては・・・です。最近、若尾文子の映画ばかりを見ていたので・・・・。
by ナカムラ (2010-10-22 09:44)
こんにちは^^
近代建築にネコ!これは見なくてはっ!
それにしても、Soap opera(ソープオペラ:昼ドラ)かと思いきや、スープ(Soup)とは・・
思わず笑ってしまいました。
なんとなく、映画「かもめ食堂」のような匂いがするのですが、違うかな?
こちらにDVDがやってきたら、見てみようと思います♪
by かあちゃん (2010-10-22 10:22)
好きな歌手のときは、いつも代理で・・・ということにはならなかったのでしょうか。w nice!をありがとうございました。>tamanossimoさん
by ChinchikoPapa (2010-10-22 10:55)
2曲目の「Whistling Away the Dark」の物悲しいメロディが、印象に残っているアルバムです。nice!をありがとうございました。>xml_xslさん
by ChinchikoPapa (2010-10-22 11:03)
商店街が活きていると、同じような街並みでも全体が明るく感じられるから不思議です。nice!をありがとうございました。>kurakichiさん
by ChinchikoPapa (2010-10-22 11:06)
高砂駅というのは、明石と姫路のちょうど中間あたりにあるのですね。一度も降りたことのない駅です。nice!をありがとうございました。>Webプレス社さん
by ChinchikoPapa (2010-10-22 11:13)
ナカムラさん、コメントとnice!をありがとうございます。
勝虫柄の着物姿で登場する、隣家の桂木夫人(草村礼子)にも注目です。いかにも、昔ながらの山手のおばあちゃん役にピッタリで、わたしの感覚ではリアリティ抜群です。
若尾文子はいいですね。中村鴈治郎や京マチ子などと共演した、小津映画『浮草』の初々しさもいいですが、ソフトバンクのとぼけたおばあちゃんも好きです。w
by ChinchikoPapa (2010-10-22 11:23)
かあちゃんさん、コメントをありがとうございます。
そうなのです、明かに『ソープ・オペラ』のタイトルを意識したコメディなのです。わたしも最初、『かもめ食堂』みたいだったらどうしよう・・・と思っていました。実は、『かもめ食堂』の制作者にはたいへん申しわけないのですが、退屈でつまらなくて居眠りをしてしまいました。(爆!)
『スープ・オペラ』のほうは退屈せず、素直に楽しめました。小ズルイ人間は登場するものの、根の深い「悪人」がひとりも登場しない点では『かもめ』と同じで、荒唐無稽なファンタジーそのものなのですが、『スープ』のほうは「ひとりで生きるとはどういうこと?」という、現代的で切実なテーマが底流にあるせいか、「ほのぼの」ばかりに転ばず、リズムのある展開が生れて退屈しなかったのではないかと思います。
by ChinchikoPapa (2010-10-22 11:46)
こんにちは。
ソープ・オペラと言わないところがミソなんですね。ネコとシャンソンは好きな方です。
この例のように古い時代背景を映画にする時、このお屋敷はこの古さのままでいいのでしょうか。この時代には新築だったかもしれないでしょ。(映画も見ないで余計な上げ足とりです。冗談冗談 笑) でも、この時代にすでにこの古さを擁していたと見ればいいんですけどね。
by sig (2010-10-22 17:02)
sigさん、コメントとnice!をありがとうございます。
実はこの映画、昭和初期でも戦後すぐでもなく、2010年の現代が舞台なのです。^^; この古い築86年の大正期住宅だからこそ、いろいろな「奇跡」が起きる・・・という舞台になりえるのかもしれません。
ヒロインが、この家にひきこもらなくて済んでいるのは(もちろん仕事をしているせいもありますが)、叔母が出て行ったあと急に居候が2人もできて、イヤでも人間関係を考えなければならないことと、いちおう携帯ぐらいの情報機器は持っていて、「外」の世界と頻繁にやりとりがあるから・・・なのでしょうね。
by ChinchikoPapa (2010-10-22 20:19)
わたしも、馴染み深いみかんのオレンジ色+葉っぱのグリーン色の湘南電車が消えちゃった・・・と寂しがっていたら、別の地域へ行けばたくさん走ってるよと言われてしまいました。w nice!をありがとうございました。>sonicさん
by ChinchikoPapa (2010-10-22 20:23)
この夏、深夜にアイスを食べながら3D世界でChatをするのが、クセになっていました。食べ過ぎると、小さめの棒アイスといえどもお腹を壊しますね。nice!をありがとうございました。>NO14Ruggermanさん
by ChinchikoPapa (2010-10-22 23:15)
モモンガーとムササビのタオル、プールサイドやビーチでもかわいくてよさそうですね。nice!をありがとうございました。>emiさん(今造ROWINGTEAMさん)
by ChinchikoPapa (2010-10-23 00:18)
ジオラマには、太陽の傾きによっていろいろな色を当ててみたくなりますね。
nice!をありがとうございました。>とらさん
by ChinchikoPapa (2010-10-23 10:24)
70年代末の当時、高級テープデッキ用のメタルカセットテープは、スケルトン仕様がほとんどだったように記憶しています。nice!をありがとうございました。>H Kosugeさん
by ChinchikoPapa (2010-10-23 11:28)
東京はわざわざアンテナを立てなくても、壁からのVHFケーブルを最新の地デジ用同軸ケーブルに変えて地デジ対応TVに接続するだけで、問題なくきれいに画面が映ることが確認できました。nice!をありがとうございました。>銀鏡反応さん
by ChinchikoPapa (2010-10-23 22:12)
シンメトリカルな教会の建物には、つい目を惹き付けられますね。
nice!をありがとうございました。>takemoviesさん
by ChinchikoPapa (2010-10-23 22:16)
100記事でブログ1周年、おめでとうございます。記事をアップすることが義務になると疲れますので、少しずつ身体をならしながらお書きください。nice!をありがとうございました。>ひまわりさん
by ChinchikoPapa (2010-10-24 00:30)
身近な写真と、その日のニュースを組み合わせるという手法は面白いですね。nice!をありがとうございました。>りぼんさん
by ChinchikoPapa (2010-10-24 10:41)
近くの敷地にイチョウの大樹があるのですが、この季節になると「銀杏をひろわないでください」という注意書きがあります。きっと、家の方が毎年楽しみにしているのでしょうね。nice!をありがとうございました。>SORIさん
by ChinchikoPapa (2010-10-24 10:54)
こちらにも、nice!をありがとうございました。>アヨアン・イゴカーさん
by ChinchikoPapa (2010-10-24 20:29)
先日、大磯郷土資料館で六所神社に所蔵されている、クシナダヒメの木像と軸が珍しく展示されているというので、時間を見つけて駆け足で拝観してきました。先々週は、千住の素盞雄社へ山車のクシナダヒメ像を観に出かけましたので(こちらはあいにく未開帳でしたが)、このところクシナダヒメづいています。w nice!をありがとうございました。>SILENTさん
by ChinchikoPapa (2010-10-24 23:41)
ご訪問とnice!をありがとうございました。>同人DL娘さん
by ChinchikoPapa (2010-10-25 10:52)
こちらにも、nice!をありがとうございました。>cocomotokyoさん
by ChinchikoPapa (2010-10-27 23:54)
以前の記事にまで、nice!をありがとうございました。>漢さん
by ChinchikoPapa (2010-10-28 19:49)
ごていねいに、こちらにもnice!をありがとうございました。>komekitiさん
by ChinchikoPapa (2010-10-28 19:50)
ごていねいに、前の記事にまでnice!をありがとうございました。>takagakiさん
by ChinchikoPapa (2010-10-28 23:33)
もう見ました、面白いですね
by ヘタリア 画像 (2010-11-09 17:51)
ヘタリア 画像さん、コメントをありがとうございます。
実はその後、『スープ・オペラ』の脚本家の方が、わたしが行きつけのカフェにみえまして、どうやら室内の洋間は現場ロケではなく、スタジオ撮影らしいことが判明していたりします。
by ChinchikoPapa (2010-11-09 18:43)
かつて「この先水溜りがある場合/通行不可」と書かれていたのが、最近「通行注意」に変わりました。これは振り子坂通りの最も低かった凹地の部分を山手通と同じ高さまでかさ上げしたことにより、集中豪雨があっても水たまりができにくくなったことによるものと思われます。大雨が降って坂道の凹地に「水溜り」ができて実際にタクシーが水没した現場と、坂の上に区の職員(?)がいて、通行止めにしていたのを見た記憶があります。
by TORONTO (2011-11-10 18:18)
TORONTOさん、コメントをありがとうございます。
看板自体を付け替えず、「通行注意」のステッカーを上から貼っているのも、経費節減の課題からでしょうか。w
お聞きした話では、排水溝の工事をしたとのことでしたが、地面のかさ上げもしているのですね。ここでの水没事故は、運転席の腰の上まで水に浸かり、1回の事故で廃車・・・というようなひどいものだったというのを、その後、目撃された方からうかがっていました。ただ、溺れて人命にかかわるような事故ではないので、いまだに新聞記事では発見できないでいます。^^
by ChinchikoPapa (2011-11-10 20:21)
路面かさ上げの際は、沿道の家でも門扉の付け替えや階段の埋め込み、駐車スペースのかさ上げなど、各種工事が発生しました。それらの費用が公的負担だったのか、各家で負担したのかは知りませんが。
by TORONTO (2011-11-16 10:30)
還暦でしょうか。一つの目安だと思いますよ。でも現在き平均寿命も伸びてしましたから本当の意味では高齢者は70歳くらいからかな。年金支給年齢とか映画館が安くなるとか、色々のシュチエーションで年齢が違うから厄介ですが、個体差があるという事ですが、下手なニートの若者より気骨がある高齢者が多い事も確かですから精神面でも考える必要があるのかな。
by DVD (2012-01-06 16:37)
TORONTOさん、すみません。昨年の11月16日にコメントをいただいていたのに、気づかずにすみませんでした。
かさ上げ工事の発生で、道路面より家の敷地が低くなっては、今度は宅地が水没しかねませんね。公道や準公道なら、道路の補修は公的費用なのでしょうが、私有地の工事も役所が負担してくれる・・・とは思えませんので、個々のお宅で負担したものでしょうか。
落合下水処理場を造るとき、現在の中井通りの地下に大きな下水管を埋設したようですが、土砂の埋め戻し作業が甘かったらしく、その結果起きた道路端にあるお宅の大谷石による築垣が、そろって道路側に傾いでしまった・・・というケースがあります。でも、公的に保障(補修)をしてくれなかったところをみますと、私有地にはいっさいノータッチなんでしょうね。
by ChinchikoPapa (2012-01-06 21:08)
DVDさん、コメントとnice!をありがとうございます。
うーん、わたしはまだ還暦には、けっこう間があるんですが。w
by ChinchikoPapa (2012-01-06 21:19)
安東さんのお宅、「解体工事のおしらせ」が貼ってありました。
by TORONTO (2023-01-09 15:50)
TORONTOさん、コメントをありがとうございます。
はい、先日うかがっておりました。建設時の面影が残る邸が消えるのは、やはり寂しいですね。
by ChinchikoPapa (2023-01-09 22:50)