シゲや、おまえも苦労しているのねえ。 [気になる下落合]
「ばあや、花壇のお手入れを、手伝っておくれ~!」
「・・・・・・」
「ばあや! いま、お二階の窓からのぞいたのは、わかっているのですよ!」
「・・・・・・」
「早くお庭へ出て、わたくしを手伝ってちょうだい!」
「・・・・・・」
「もう、こういうときに限って、急に耳が遠くなるのだから!」
「・・・あ、あの、お嬢様。球根ば、おもさん踏んどります」
「あら、まあ、いけないこと」
「あいた~、ほんなこつ、2つほど割れよりました」
「まあ、せっかくギル様にいただいたヒヤシンスが・・・」
「お嬢様が、えろうおめいて怒りよるけん。・・・あっ、すんまっせん!」
「いいのよ。だって、ばあやときたら、いつもこうなのだから・・・」
「・・・・・・」
「ねえ、シゲやは、ばあやをどう思って?」
「・・・はい」
「シゲやは、ばあやにイジメられたりしてないこと?」
「・・・さしより、たいぎゃ馴れとります。うちにも、あぎゃんせからしか年寄りば、おりますけん」
「あら、熊本には、お祖母様がいるの?」
「はい」
「そうねえ、おまえもたいへんだろうけど、もう少し辛抱してちょうだいね」
「はい、わかっとります、お嬢様。・・・ばってん、・・・ばあやさんには、えらいあくしゃうっとっと!」
「や、役者おっとっと?」
「いえ、お嬢様、こぎゃんこつ申し上げてよかか、知らんばってん・・・」
「なあに、シゲや? わたくしを姉だと思って、なんでもお話し」
「・・・あの、ばあやさん、いっちょん懲りとらん!」
「まあ、なあに?」
「この前、運転手さんが休みなさん日に、お嬢様のおクルマば、ばあやさんが運転してそのへんを乗りまわしよりまっす」
「・・・まっ、まあ、ななな、なんですって!?」
「とつけもにゃ~運転ばしよって、相馬様の黒門跡の木にヘッドライトぶっつけて、ほんで、ついでにバックで吉良様の塀ば、おもっさんこすりよりました」
「まあっ! なっ、なんてことでしょ!」
「氷川さんの角でん、バンパーをガリガリひっかけよります」
「お、おまえは、どうしてそれを知ってるの! 見てたの!?」
「いいえ、助手席ば座れ座れ言いよりますけん。・・・うちば、無理やり乗せられたとです」
「まっ、まあ、ばあやったら!」
「塗装がむげえ剥げよるとこに、平気で黒ペンキ塗りよるけん、さすがに注意ばしたとですよ」
「だ、だから、運転手の小西がおととい、わたくしのところへ、妙な顔色で訊きにきたのだわ!」
「そしたら、シゲや~、クルマに瑕つけちゃダメじゃないの、あたしがわからないように直しといたげるからねえ・・・とかなんとか、なんさま、たまがるこつ平気で言いよりまっす!」
「そう、そうなのよ! ばあやは、すぐに人のせいにするんだわ。・・・ほんっっっとにもう! ばあやったら、どうしたものでしょ!!」
「どぎゃんもこぎゃんもなかとです。あぎゃんう~ばんぎゃ~な年寄りば、もう初めてですたい!」
「お、おまえも、ずいぶんと、たまっているのですね」
「どがしこでん、たまりよりまっす!」
「・・・ちょっ、ちょっと、ばあや!? ばあやはどこなの、お返事をおし!?」
「シーーーッ、だめです、お嬢様」
「あら、どうして?」
「うちが言いつけよること、ばあやさんに知れたら、いつかしじゅう怒られますけん」
「・・・おまえも、それなりに、苦労しているのねえ」
「はい」
「おまえもたいへんだろうけれど、わたくしもそれなりに、たいへんなのです」
「・・・・・・」
「おまえもイジメられてるようだけど、わたくしも最近、なにやらイジメられてるClick!気がするの」
「・・・あっ! いま、ばあやさんが窓ば閉めよったとです」
「まあ、わたくしたちの話を聞いてたのかしら?」
「お嬢様、どこさんでん、ばあやさんの耳がありよります。まうごてえすかぁ~」
「シゲや、そんな、おびえなくても大丈夫よ。わたくしが、ちゃんとついています」
「・・・ほんなこつ、くちなわんような性格の人たい」
「くちなわ?」
「ヘビのことです」
「・・・まあ」
「どこさんでんさらきよる、くちなわばあやさんたい!」
「シゲや、おまえ、もしかして思いっっっきり、たまってるのねえ」
「・・・はい、お嬢様」
「へび女のばあやなんて、まるで、楳図かずお*の世界だわ」
「おっ、お嬢様! 急にめまいと頭痛ばしよる~。時空ばゆがんで、たまがったとね!」
「あら、ごめんあそばせ。少しばかり、時代が早かったかしら・・・」
「お嬢様、こうなったら、組合ばつくりまっしょ!」
「・・・組合?」
「ばあやさんの横暴に、団結して起ちあがっとですよ! 国鉄の人民電車ん次は、ほんなこつ、ばあやさんの横暴を粉砕ばしよっと。♪暴虐のくさり断~つ日、旗は血にもえて~・・・たい!」
「・・・それって、シゲや。もしかして、どこかが思いっきり、間違っているような気がするのだけれど」
「あれ~、お嬢様。ばあやさんが、こけ来よります!」
「まあ、シーーッ」
「ばあやさん、鎌とDDTば手にしよる。はらかきそうで、たいっぎゃえすか~!」
「シゲや、知らん顔をおし」
「はい」
「ねえ、シゲやも、つらいだろうけど、がんばってね」
「はい、ありがとうございます。・・・お嬢様も、くじけんでがまだせ! これからは組合の時代だけん、お嬢様、団交の委員長ば、さしよりお願いしまっす」
*楳図かずおの「へび女」は、1962年(昭和37)ごろが初出なのでこの物語の11年後。
たいぎゃな、笑わせち、いただきました♪
ばあやさんの反撃ば、楽しみにしとります♪♪
by some ori (2006-09-18 20:56)
ちょっと、エスカレートしすぎでしょうか?
このままだと、このお屋敷になにか大きな騒動が持ち上がりそうな・・・。お嬢様とばあやさんの「勝負」は、はたしてどこまでつづくのでしょう?(^^;
by ChinchikoPapa (2006-09-18 22:51)